声劇×ボカロ_vol.35 『 君へ 』
Want to be with you Forever
【テーマ】
幼き恋心
【登場人物】
道下 陽麻(17) -Haruma Michishita-
ずっと千絵の隣にいることが当たり前だと思っていた。
芽生えた恋心に胸を締め付けられる。愛称はハル。
花宮 千絵(17) -Chie Hanamiya-
抱いた想いを素直に言葉にできない女の子。
陽麻の笑顔が大好き。愛称はちー。
【キーワード】
・幼なじみ
・当たり前の距離
・近いようで遠い存在
・好きだから臆病
【展開】
・幼なじみの二人。自然な会話、いつもの距離感。
・いつも隣にいる千絵を好きになっていく陽麻。
・大好きな彼女の笑顔を失うことが怖くて、何も言えずに時間だけが過ぎていく。
・想いを伝えることで関係が壊れることを怖れる陽麻。結局想いは伝えぬまま。
《注意(記号表記:説明)》
「」 → 会話(口に出して話す言葉)
M → モノローグ(心情・気持ちの語り)
N → ナレーション(登場人物による状況説明)
※ただし「」との区別をつけるため、MおよびNは、:(コロン)でセリフを表記する。
また“N”の中に心情(M)を含ませることもあり。
【本編】
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
陽麻 N:いつも隣にいるから、全然気づかなかった。
そこに彼女がいることは、僕にとっては自然なことで。
笑って、怒って、泣いて…。
同じ時間をいつだって一緒に過ごしてきた僕らは、言葉にしなくても、お互いに繋がってるんだと
思っていた。
そんな幼き日の思い出…。
大人になっても、鮮明に浮かぶ君との日々…。
僕はアルバムをめくるように、1つずつ振り返っていた。
* * * * *
千絵 「ちょっとぉ、何してんの、こんなところで?」
陽麻 「うおっ!?」
陽麻 N:突然声をかけられ、振り返ると、そこにいたのは千絵。
しゃがみこんでいる僕を、覗き込むように見ている。
陽麻 「え、あー。いや、別に」
千絵 「別に、って…。明らかに今なにか隠したでしょ?」
陽麻 「えー?いや、なんのことかなぁ」
千絵 「しらばっくれんなっ。言わないなら…、こうだ!」
陽麻 「え、ちょ…っ。やめっ、くっ。ぷっ、あはははは」
陽麻 N:ひゅっと僕の脇の下に手を伸ばした彼女は、笑顔で僕をくすぐる。
その悪意さえ見える、彼女の無邪気な笑顔が僕は好きだった。
まぁ、悪意なんてないのは、始めっからわかってはいるんだけど。
千絵 「どう?まだやる?」
陽麻 「(呼吸を荒くして)……はぁはぁ。…っ、いえ、結構です」
千絵 「はい、じゃあ隠したものをおとなしく見せなさい」
陽麻 「…ったく。せっかくのサプライズが台無…」
千絵 「(被せて/不敵な笑みを浮かべ)なに?」
陽麻 「いーえ。なんでもありません」
陽麻 N:僕は身体で覆い隠していたそれを彼女に見せる。
千絵 「え、花?」
陽麻 「な、なんかここに一個だけ咲いてて、それが妙に綺麗だったから。
お前喜ぶかなって。あと…」
千絵 「…あと?」
陽麻 「今日お前、た、誕生日だし…?」
千絵 「…ぷっ。(吹き出して)あははははっ!」
陽麻 N:僕のセリフに吹き出す彼女。目に涙を浮かべて、僕の顔を見ては何度も笑っていた。
あとになって言われたなぁ。らしくないって。
自分でもわかってるから、言いたくなかったのにさ。
でも、うん。千絵のあんな笑顔が見れたんなら、それでいいや。
* * * * *
千絵 N:小さい頃からいつも隣にいてくれた。
そんな彼に恋をするのに、時間はかからなかった。
でも想いを伝えてしまったら、その後ギクシャクしてしまったらって考えてしまって、
私からは特に何もしないまま。
陽麻 「ちー、いるー?」
千絵 「んー?なに、どしたの?」
陽麻 「悪いんだけどさ、今日勉強教えてくれない?」
千絵 「またー?あ、そういえば今度テスト悪かったらヤバいって言ってたね」
陽麻 「そうなんだよ。だからさ、頼むよ」
千絵 「いいけど、ハルん家で?」
陽麻 「いや、ちーの家でもいい?」
千絵 「あ、はーい。じゃあ放課後待ってるね」
陽麻 「おう」
千絵 N:恋をしていたって、言葉につまったりなんかはしない。
だってそんなの私たちからしたら、逆に不自然だもん。
気づいてほしいけど、気づかないでほしい。
この気持ちを知られたら、もうこうして笑っていられないかもしれない。
一緒に過ごす時間がなくなるなんて、考えられない。考えたくもない。
陽麻 「いやぁ、この間教えてもらったおかげで、なんとかセーフだったわ」
千絵 「みたいだね。よかった、よかった」
陽麻 「それで、さ…」
千絵 「ん?」
陽麻 「今度の休み、遊び行かね?」
千絵 「へ?……あ、お礼ってこと?」
陽麻 「(照れ隠し)ま、まー、そんな感じ」
千絵 N:目を逸らして、でもちょっぴり照れた感じで。
可愛い、というセリフを私は飲み込む。
言ったら言ったで、絶対に不機嫌になるの、わかってるもんね。
千絵 「あっ」
陽麻 「な、なに?」
千絵 「……ねぇ、それってデート?」
陽麻 「バッ…。そ、そんなわけねーだろ!!」
千絵 N:はは、本気で焦ってる。おもしろーい。
でもね。
あなたは否定したけど、私はそのつもりで行くよ?
だってあなたへの気持ちに気づいてから、初めて二人だけで出かけるんだもん。
嬉しいのは、私も同じ。
陽麻 N:意識してることがバレないように、僕は幼なじみとして、彼女に声をかけた。
時折、核心に迫る返しをされたが、たぶん、いや絶対にバレていない。
どこからそんな自信が?
頭の中で誰かが呟く。
自信とかそんなんじゃない。僕がそう信じたいだけ。
だってもしバレてたら、そんな簡単にOKなんてもらうわけが…。
千絵 「いいよ、どこ行く?」
陽麻 「え、いいの?」
千絵 「ん?うん。断る理由、別にないでしょ?ずっと一緒なんだし」
陽麻 N:“ずっと一緒”。
その言葉にドキッとするも、僕らは幼なじみ。それ以上でもそれ以下でもない。
一番近いようで遠い。そんな存在の僕ら。
陽麻 「そう、だな」
千絵 「なによ。今さら私が幼なじみだってことに不満でも?」
陽麻 「ないです、はい」
千絵 「よろしい」
陽麻 N:そうしてまた笑う彼女。
喉の辺りまで来ていた『好き』の言葉を、僕はまた飲み込んだ。
簡単そうで難しい言葉。素直になればなるほど、今のこの関係が壊れてしまうんじゃないかって、
すごく怖かった。
千絵 N:彼がそんなことを考えているなんて露(つゆ)知らず、私はデート当日、とてもわくわくしていた。
陽麻 「ごめん、ちー。遅くなって」
千絵 「ホントだよ。ハルが誘ってきたんでしょ?」
陽麻 「だからごめんて!」
千絵 「えー、許さなーい」
陽麻 「な、なんか奢るからさ!機嫌直して」
千絵 「むー。しょうがないなぁ。じゃ~あ…」
陽麻 N:そんなやり取りが、僕は楽しくて仕方なかった。
でも彼女の笑顔が、僕の胸を締め付ける。
『ずっと前から好きでした』
この想いを伝えたら、君はこれからも僕の隣にいてくれますか?
* * * * *
千絵 N:蘇るたくさんの思い出。
いつの間にか疎遠になってしまっても、やっぱりあなたが好きだという想い。
でも結局あなたは言ってはくれなかった。
私は――私たちは幼なじみ。小さい時からずっと一緒。
たとえ疎遠になっても、その関係は変わらない。
願わくば、私はあなたとこの先の未来をずっと――。
≪ タイトルコール ≫ ※英語・日本語から1つを選ぶ
【英語 ver.】
陽麻 「 Want to be with you Forever 」
( ウォン トゥ ビー ウィズ ユー フォーエヴァー)
【日本語 ver.】
陽麻 「 君とずっと一緒にいたいから 」
+ + + +
千絵 「あのね、いくら幼なじみだからって、小っちゃい頃からの呼び方もどうかと思うの」
陽麻 「じゃあなんて呼ぶんだよ?」
千絵 「う~ん…。やっぱ呼び捨てかな、普通に」
陽麻 「……ち、千絵?」
千絵 「…陽…、麻?」
陽麻 「あーっ!なんかはずっ!」
千絵 「ま、まぁ。すぐに慣れるでしょ」
陽麻 N:ただ呼び方を変えただけですごくドキドキした。
君も、僕と同じだったらいいのに、って思いながらいたら…。
千絵 「……っ。ば、バカ!こっち見んな!!」
陽麻 N:僕に見られないように、顔を隠している。でも耳は真っ赤。
それだけで僕は「あー、やっぱり好きだなぁ」って思ったんだ。
千絵 「……な、なに?」
陽麻 「なーんでもない。帰ろ」
fin...