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声劇×ボカロ_vol.19-B  『 ACUTE 』


End of Crooked Love      ( ※直訳:歪んだ愛の結末 )

 


【テーマ】

愛情のカタチ

 


【登場人物】

 橘 慧祐(24) -Keisuke Tachibana-
社会人2年目の青年。社交的な方。
栞那に縛られがちで、ストレスがたまっている。

 


 響 栞那(22) -Kanna Hibiki- 
慧祐の幼なじみで、付き合って3年になる。
普段は明るいが、慧祐のことになると目の色を変える。

 


 椿 瑠奈(24) -Runa Tsubaki-
慧祐の同僚で、栞那の隣人。
慧祐とは、名前に同じ花の名前がついてたことから意気投合する。

 

 

【キーワード】

・裏切り
・近づきすぎた関係
・悪魔の声
・愛情の矛先

 


【展開】

・些細なことでケンカをしてしまう慧祐と栞那。
 昔を思い出す栞那と同僚に相談する慧祐。
・密かに慧祐を想っていた瑠奈。傷心の慧祐の心に割り込む。
・女の影を感じる栞那。仲のいいご近所のお姉さん(瑠奈)に相談する。
・浮気現場に遭遇する栞那。その相手を知り、表現できない感情が湧きあがる。
 そして…。

 

 

※キーアイテム / ナイフ(研ぎ澄まされた何か、物体そのもの)

 

 

 

《注意(記号表記:説明)》

「」 → 会話(口に出して話す言葉)
 M  → モノローグ(心情・気持ちの語り)
 N  → ナレーション(登場人物による状況説明)

※ただし「」との区別をつけるため、MおよびNは、:(コロン)でセリフを表記する。

 

 


【本編】

 

慧祐 「あの日言ったこと、なかったことにできる?」


* * * * *

 

 

 


瑠奈 N:私は彼の言う“あの日”がいつを指しているのか、すぐにわかった。
     というか、正直、あの日の続きを私も期待していた。
     胸元を大きく開けていたのも、わざと。これ以上の誘惑なんて私には無理。

 

 

慧祐 「…なんだよ、その顔」

 


瑠奈 「べっつにー。なんで?」

 


慧祐 「俺から誘うとか、意外だって思ってるだろ?」

 


瑠奈 「でも私はその誘いに乗ったんだよ……んむっ」

 

 

瑠奈 N:部屋に入ってすぐ、話の途中で口をふさがれた。
     そこから先は……。うん。ご想像通り。

 

     以前と違って、彼が私を求めてくるキス。
     そこに少しでも想いを感じてしまった私は、全身の力が一気に抜け、あとはもう、そのまま…。

 

 

慧祐 「ごちそうさまでした」

 


瑠奈 「あはは、なに言ってんの」

 


慧祐 「今度こそこれで終わりにしないとなぁ」

 


瑠奈 「…できるの?」

 


慧祐 「……たぶん」

 


瑠奈 「へー。じゃあ今後そっちから誘ってきたとしても、私は無視すればいいのね」

 


慧祐 「そう、だな」

 

 

慧祐 N:でもその決断は甘かった。
     思い出せば思い出すほど、瑠奈との相性はよかったし、また声を聞きたくなる。欲しくなる。

 

     ダメだとわかっていても止(や)められない。
     事が済んでから抱(いだ)くのは、いつも同じこと。後悔。不安。そして、快楽…。

 

 

瑠奈 「それで、今日はどうするの?行く?」

 


慧祐 「え、行かないの?」

 

慧祐 N:後悔も不安もだんだん薄れていき、最後に残ったのは快楽だけ。
     彼女を求める。繰り返す。溺れていく。
     その度に心は錆(さ)びていき、そこで廻っている歯車は少しずつ音を軋(きし)ませていく。

     もう、どうなったっていい。
     彼女が――瑠奈が欲しい。

 


     そしてまた今夜も、僕らは互いを激しく求め合う…。

 


栞那 「…慧祐、ここにいるの?」

 


 + + + +

瑠奈 「あら、栞那ちゃん。どうしたの?」

 


栞那 「あの、瑠奈さん。相談に乗ってほしいんですけど…」

 


瑠奈 「また彼氏とケンカしたの?」

 


栞那 「あー、はい…」

 

 

栞那 N:ケンカをしたのは本当だけど、今日はそれだけじゃなかった。

 

     最近、慧祐が何かと理由をつけて会うことを拒否している。
     何もないと信じたい気持ちはあった。
     でも誰かの影が見え隠れしている。
     私の前から彼がいなくなってしまうのではないかと、不安で不安で仕方なかった。

 

 

瑠奈 「へー。彼氏が浮気ねー」

 


栞那 「直接見たわけじゃないし、証拠とかもないんですけど。瑠奈さんなら気持ちわかりますよね?」

 


瑠奈 「そりゃ自分がされたら、その相手殺したいほど憎むでしょうね」

 


栞那 「……私なんて、冷静でいる自信なんてありませんよ」

 


瑠奈 「まぁ、浮気現場を見ちゃったら、誰だって冷静じゃいられないでしょ」

 

 

 + + + +

 

 

栞那 N:それはつい最近のことだった。だから彼女のセリフはしっかりと覚えている。

 

     扉を開けた先にいたのは慧祐と――。

 

 

 + + + +

 

 

瑠奈 N:彼氏のことを何度か相談に来ていたお隣の女の子。
     その中で出る“ケイスケ”という名の彼。
     その名前を聞いて、一瞬ドキッとするも、よくある名前だと自分に言い聞かせた。

 

     まさかそんなわけない。
     私の好きな人が、自分にこんな身近な人と付き合ってるなんて、そんな偶然…。

 + + + +

 

 

栞那 N:慧祐の姿は確認できた。誰かに覆いかぶさっている。
     でもその下にいる人に、私は言葉を失った。

 

     振り向いた二人。
     場違いなのは私だというように、驚きとともに冷ややかな目を向けてくる。

 

     『その現場を見たら、誰だって冷静じゃいられない』

 

     私の心で悪魔が目覚めた。

 

 

 + + + +

 

 

慧祐 N:最近、栞那とよくケンカしている。原因は…。
     おそらく、というか間違いなく自分にあるだろう。

 

     それでももう戻れない。あの頃のようには。
     すっかり錆びついてしまったこの心の麻痺を癒すのは、快楽だけ。

 


     飽きることなく彼女を求めてきた。
     それが慣れた作業だとしても、お互いの気持ちを確かめ合ったつもりになっていた。
     “愛”だとか“恋”ってそういうものだと、自分に言って誤魔化していた。

 

 

 + + + +

 

 

栞那 「…けい…すけ…?」

 


慧祐 「か、栞那…」

 


栞那 「………瑠奈、さん…?」

 


慧祐 「え…?」

 

 

慧祐 N:瑠奈は栞那から目を逸らして、黙り込んでいた。

 

     なぜ栞那がここにいるのか。なぜ栞那が瑠奈を知っているのか。疑問は尽きない。
     だがその疑問は、解決されることはないだろう。

 

     栞那の蔑むような、人を見下すような目が、そう語っていた。

 

 

栞那 「……さない」

 


慧祐 「え?」

 


栞那 「許サナイ」

 

 

慧祐 N:俯いて、そう口にした栞那の顔は、今までに見たことのないもの。
     そこにいたのは、僕の知らない彼女。向けられた視線が、強く心を抉(えぐ)る。

 

     仮面が、引き剥がされた…。
     僕のも。そして彼女のも。

 

 

瑠奈 N:まさか自分が当事者になるなんて。
     そこに私の知る優しい彼女は、どこにもいない。

 

     きっとこれは、ただでは済まない。

 

 

栞那 「…許さない…けど、もう彼に近づかないっていうなら見逃してあげる」

 


瑠奈 「え?」

 


栞那 「あと家の近くで私に会っても、話しかけないでください」

 


瑠奈 「……はい」

 

 

慧祐 N:二人のそんなやり取りを、ただ見ていることしかできなかった。
     首の皮一枚繋がった、そんな安堵感。

     この温情を、栞那をもう絶対に裏切っちゃいけない。
     自分の非を認め、もっと誠実に向き合おう。それが義務だと言い聞かせる。

 

 

 

     だけど――。

 

 

 

     一度覚えた蜜の味。それは麻薬のように彼女を欲し、彼女もまた求める。
     禁じられた遊び。それが僕たちを、さらなる快楽へと導く。

 

 

瑠奈 「もうあの頃のようには戻れないの?」

 


栞那 「それを壊したのは、アナタでしょう?」

 


瑠奈 「そ、そうだけど…」

 

 

慧祐 N:いつもの場所。隣には瑠奈。
     そんな彼女が、顔を強張(こわば)らせて誰かと話している。

 

     一息ついて、突然かかってきた電話。
     でも僕は瑠奈と繋がった余韻が強く残っていて、その通話の内容も相手も、特に気にせず、
     通話相手にバレないように、彼女を押し倒す。

 

     拒否することも、余計なことも口にできないその状況を、僕は楽しんでいた。
     流れに身を任せるしかない彼女。我慢しているその顔が、さらに僕を奮い立たせる。

 

 

瑠奈 「あっ」

 

 

慧祐 N:漏れてしまった声。ヤバいという表情と赤面するその姿に、僕は煽(あお)られ、耳に届いた
     はずの、通話相手の声を簡単に受け流していた。

栞那 「約束、してたのにね」

 


瑠奈 「え…、あ…」


栞那 「瑠奈…あなただけは…」

 

 

瑠奈 N:いつの間にか“そこ”にいた彼女。手には携帯を持ち、誰かと通話している状態。
     その相手は―― 私。

 

 

栞那 「ソウ、コンナ事ハアッテハナラナインダ…」

 

 

瑠奈 N:何かを呟いた彼女の表情で、私は反射的に彼を押し退(の)けた。
     それはきっと動物の直感的なもの。身の危険を感じるアレ。

 

     私に突き飛ばされた彼は、冷めた目で彼女を見ていた。
     あの誓いはどこへ――。
     ただ目の前の欲求に目が眩んでいるだけの彼に、彼女は勢いよく抱きつく。

 

 

栞那 「ねぇ、どうして!私じゃ、私じゃダメなの!?」

 

 

瑠奈 N:冷ややかだった目と、凄みのある声はどこへやら。
     甘えた感じで可愛い女の子を“演じて”いるのが目に見えてわかる。

 

 

慧祐 「悪かったよ。今度こそちゃんと改心するか……ら…」

 

 

瑠奈 N:その場しのぎの言葉に聞こえたのかもしれない。
     でもそれを聞くよりも先に、彼女はそうしようと決めていたのかもしれない。

 

     勢いよく抱きついたときに聞こえた鈍い音。
     今思えば、それはこの音だったのだ。

 

 

慧祐 「…かん…な」

 

 

瑠奈 N:彼の体はだらりと力が抜け、抱きついてきた彼女に持たれかかる。
     ふとその下を見ると、ポタポタと赤い雫が滴っていた。

 

     予想もしていなかった“非現実”に、自分の目を疑ってしまう。
     でもそれは確かに、彼の身体を、私の心を貫いていた。

 

 

栞那 「ふふ…」

 

 

瑠奈 N:返り血を浴びた彼女が、こちらを向いた。
     振り向くと同時に、彼は床に倒れ込む。

 

     次はきっと私の番。そう思っていた。

 

 

瑠奈 「…い、いや…。こない…で…」

 


栞那 「大丈夫。あなたと彼は一緒に逝かせない」

 


瑠奈 「そ、それじゃ…っ。た…」

 

 

瑠奈 N:助けてくれるの?
     そう聞く前に彼女は…。

 

 

栞那 「アナタノスベテヲ奪ッテアゲル…」

 

 

瑠奈 N:そう言って手にしていたナイフを、彼女は自分の喉元に付きつける。

 

 

栞那 「彼モ、思イ出モ、何モカモ奪ッテアゲル…」

 

瑠奈 N:そう言うと、私の目の前でその鋭い刃を…。

 

 

     そこからはよく覚えていない。
     目を閉じて浮かぶのは、彼女の冷たい視線と横たわる彼の姿。

 

     私は病院のベッドで目を覚ました。

 

 

瑠奈 「……生きて…る…?」

 

瑠奈 N:記憶はない。あの日のあの部分だけが、すっぽりと抜けている。
     彼と一緒にいて、幸せで。でも罪悪感もあって。
     その報いを受けるのは、私の方だったはずなのに…。

 

     なのに、こんな…。

 


     一人残された私。
     彼も、彼女もあの後どうなったのかわからない。
     でも今、私がこうして無事でいる。それが彼らの結末を静かに伝える。

 


     彼女の望み通り、私はすべてを失った。彼も、思い出も、何もかも。
     きっと仕事もクビになっているだろう。

 

     彼と同じ場所で過ごした時間。
     彼女と女子トーク全開だった楽しい一時(ひととき)。
     それらはすべて泡となって消えゆく。

 

 

 + + + +

 

 

慧祐 「おい、瑠奈!聞いてんのか?」

 


栞那 「ちょっと瑠奈さん、聞いてくださいよー」

 


瑠奈 「はいはい、順番に聞くよー」

 

 

 + + + +

 

 

瑠奈 N:いつかこんな日が来ると思っていた。それが、私の理想だった。ただそれだけのこと。

 

     どれだけ思い出を振り返っても、最後にはあの日のことが蘇る。
     私にとって大事な人を、同時に二人も失ったあの日。

 

     燃え上がりすぎた炎は、私も、周りの人もすべてを焼き尽くし、その現実をつきつける。

 


     今はただ休もう。すべてを忘れて。
     たくさんの過ちも後悔も、いつかきっと前に進むために必要なもの。

 

     そう信じて――。

 

 


≪ タイトルコール ≫

???「あ、コレ落としましたよ」

 

瑠奈 N:夢をみた。

 

???「それじゃ、私はこれで」

 

 

瑠奈 N:街を歩いていて、私は彼女とぶつかり、何か落としてしまったらしい。
     その“何か”を確認せずに、私はお礼を言って…。

 

 

???「言ったでしょ?すべてを奪うって…」

 

 

瑠奈 N:去り際に彼女が言い放つ。その“何か”は、真っ赤なあの――。

     刹那(せつな)、背筋が凍るような気配を感じた。
     振り返ると、手元にあったはずの“それ”は、さっきの彼女の喉元に…。

 

 

栞那 「何度デモ奪ッテアゲル…」

 

 

瑠奈 N:記憶に残る彼女が、私の目の前でまた――。
     私の視界が真っ赤に染まっていく。

     そうして私は、目を覚ます。

 


     彼女はいつも笑っていた。

 

 

栞那 「絶対ニ許シマセンカラ」

 

 

慧祐 「 End of Crooked Love ~ 歪んだ愛の結末は ~ 」
    (エンド オブ クロケッド ラヴ)

 

 


fin...
 

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