声劇×ボカロ_vol.3
『 心拍数#0822 』
Distance
【登場人物】
須野 優梨愛(23) -Yuria Suno-
耕介の幼なじみ。
幼い頃から耕介のことが好きだった。
一途だが、少し脆い面もある。
水沢 耕介(18) -Kousuke Mizusawa-
高校は親元を離れていたが、大学進学を機に
実家に戻ってくる。
意地っ張りで素直になれない性格。
水沢 美智子(40) -Michiko Mizusawa-
耕介の母。
優梨愛を実の娘のように可愛がっている。
【キーワード】
・約束
・タイムリミット
・鼓動の伝う距離
・「ありがとう」
【展開】
・幼なじみの優梨愛と耕介。
・ずっと抱いていた想いを告げる優梨愛。
二人は恋人同士に。
・耕介からの突然の別れ。自暴自棄になる
優梨愛。
・「ありがとう」。ただそれを伝えたかっ
た…。
《注意(記号表記:説明)》
「」 → 会話
(口に出して話す言葉)
M → モノローグ
(心情・気持ちの語り)
N → ナレーション
(登場人物による状況説明)
※ただし「」との区別をつけるため、Mおよび
Nは、:(コロン)でセリフを表記する。
また本編はN(ナレーション)を中心に展開
される。
【本編】
優梨愛 N
あの頃、私は小さな約束をした。君にと
ってそれは、些細なことかもしれない。
それでも私には、とても大事なことで。
泣き虫だった私。私より小っちゃい君
は、傷だらけになりながら、一生懸命私
を守ろうとしてくれた。
だから離れても、あの約束があったか
ら、私はずっと君のことを待っていられ
たんだよ。
私みたいに、君も、あの時のままでいて
くれたらなんて、ずっとそんなことばか
り考えていたんだ。
♪~ “心拍数#0822 piano ver.”
(不要でも可/展開のイメージとして)
耕介 「ユリ姉、ただいま」
優梨愛「おかえりーっ、コウちゃん!」
耕介 「あ、ユリ姉。ちょっと太った?」
優梨愛「えぇ!?う、うそぉ」
耕介 「なーんてね。相変わらずだね、ユリ
姉」
優梨愛 N
幼なじみのコウちゃん。お隣に住んで
いて、お互い一人っ子だったから、私
は彼を弟のように可愛がっていた。
全寮制の高校に行ってたから、3年ぶ
りの再会。お盆やお正月の帰省のとき
も、私が何かと予定が入っていて、ホ
ントに一度も会っていない。だから…。
耕介 「ん?ユリ姉、どうしたの?久しぶりに
僕に会えて、泣いてんの?」
優梨愛「ば、バカ!そんなんじゃないって!」
耕介 「そうなの?僕は、ユリ姉に会えて、嬉
しいよ?」
優梨愛「ちょ、そんなこと…。う、嘘つかない
でよ!」
耕介 「もちろん嘘!」
優梨愛「(照れて)なっ…。ちょっと、コウち
ゃん!!」
耕介 「あはははは…」
優梨愛 N
昔はあんなに可愛かったのに。3年も会
わないうちに、すごく生意気になった。
ううん。きっと私が変に意識してるせい
かも…。
私は幼い頃から、コウちゃんに恋して
る。
5つも離れてるから、きっとコウちゃん
は、私のことを《お姉ちゃん》としか見
てないだろうけど。
優梨愛「コウちゃん、あのね…」
耕介 「あ、ごめん、ユリ姉。これから友達と
約束してるから、また後でね!」
優梨愛「……あ、うん。…また、後でね」
優梨愛 N
昔のように、コウちゃんは私だけのもの
じゃないんだ。
友達がたくさんできて、きっと可愛い彼
女とかもいて。
私はもう、一番じゃないんだ。
コウちゃんの姿が見えなくなるまで目で
追っていた私。
一度も振り向かない彼に、私は俯くしか
なかった。
* * * * *
耕介 M:はぁ、はぁ、はぁ…。
やばいって、マジ無理…。
ユリ姉、めっちゃキレイになってる。
ば、バレなかった…よね…?
耕介 N
息を整えながら、僕はユリ姉の顔を思い
出す。
自分でも顔が赤くなっているのがわか
る。熱い…。
昔からいつも面倒を見てくれたお隣のお
姉さん。高校に行くまでは、そんな印象
しかなかった。
でも離れてみてわかった。僕は、傍にい
つもいてくれるユリ姉のことが好きだっ
たんだ、と。
だからせっかく帰省したのに会えなかっ
たりしたときは、お隣のおばさんにバレ
ないように毅然(きぜん)と振る舞ってい
た。
いなくてせーせーするよ!
そんなことないのに。会いたくてしょう
がないのに。
僕たちは、お互いのことを一番知ってい
るようで、知らない。そんな微妙な関係
だった。
耕介 「ユリ姉、彼氏…いるんだろうな…」
耕介 N
想いをちゃんと伝えるべきか。そんなこ
とを考えるだけで、彼女の顔を思い浮か
べて、また胸をドキドキさせて。
その胸の高鳴りが止むことはきっとな
い。彼女が僕の傍にいる限り。
彼女の傍で笑っていたい。だから僕は、
フラれるのが怖くて、まだ想いを伝えら
れないでいる。
何より、彼女の悲しむ顔は見たくない。
『ごめんね』というその言葉が、怖く
て…。
* * * * *
優梨愛 N
コウちゃんがそんなことを考えてるなん
て露知らず、私はただ自分が彼の傍にい
たいためだけに、時間があれば一緒に遊
ぶようにしていた。
耕介 「好き…なんだ、ユリ姉のこと」
優梨愛「へ?」
耕介 「あれ、聞こえなかった?じゃ、じゃあ
…もう1回言うよ。僕、ユリ姉が好
き」
優梨愛 N
聞こえてないわけじゃなかった。ただい
きなりだったから。それに、そうだった
らいいな、とは思っていたけど、まさか
本当に…。
耕介 「……ゆ、ユリ姉…?」
優梨愛「(泣いて)ぐすっ」
耕介 「え、泣いてるの!?冗談に決まってん
じゃん!もう、何本気にしてんのさ
ぁ」
優梨愛「……(泣いて)ぐすっ」
耕介 「あー、あの…。もう嘘つきたくない
や。冗談じゃないよ。ホントに好きな
んだ、ユリ姉のこと」
優梨愛「…ま、またそうやって、からか…っ
て」
耕介 「……っ」
優梨愛 N
好きな気持ちを冗談にされたことと、言
わずに溜めてきた想いが一気に溢れたか
らか、涙は止まらない。
彼から目を背けて、なんとか涙を堪えよ
うとすると、急に力強く抱きしめられ
た。
耕介 「あのさ、ユリ姉。僕、ユリ姉にずっと
会いたかった。ユリ姉、すごく綺麗に
なってたから、きっともう彼氏とかい
るんじゃないかって思ってた。だから
このまま黙ってようって。でも、やっ
ぱり無理。好きだもん」
優梨愛「…(泣いて)ぐすっ、コウ…ちゃ…
ん」
耕介 「だからさ、僕のこと嫌いにならないで
よ。僕なんか恋愛対象にならないって
言うなら、なおのことさ。じゃない
と…」
優梨愛「……すき…」
耕介 「へ?」
優梨愛 N
恥ずかしかった。でも、なんとか声を振
り絞って言葉にした。ちゃんと伝えたか
った。
耕介 「い、今…なんて…?」
優梨愛「……わ、私も。コウちゃんが好き…」
耕介 「…ホント…に…?」
優梨愛 N
コウちゃんの腕の中で、真っ赤になった
顔を見られないように、私は抱きしめら
れた状態のまま答えた。
* * * * *
耕介 N
まだドキドキしていた。こんなに鼓動が
速いのは初めてで、その鼓動の一つ一つ
が彼女への想いを刻む。
想いが通じた。その現実に溶かされそう
で、でも同時に彼女を抱きしめる力は強
くなって。
今まで知らなかったこと。
駆け足で走る鼓動。嬉しくて零れる涙。
腕の中の温もり。
何度も何度も『 好き 』と伝えたくな
る。それほど、今のユリ姉は愛しかっ
た。
優梨愛「ね、ねぇ。私、コウちゃんの……彼
女になってもいい、の…?」
耕介 「そ、それはこっちのセリフなんです
けど。僕で、いいの?」
優梨愛「ううん。私は、コウちゃんがいい」
耕介 「うん、ありがと…。あー!すっげー、
緊張したー!!」
優梨愛「なに、急に」
耕介 「だって絶対フラレると思ってたもん。
だから…。あー、もう!マジでホッ
としたー!!」
優梨愛「私だって怖かったよぉ、もう。でも、
よろしくね、彼氏さん?」
耕介 N
照れながらそう言うユリ姉。
僕はこの時、自分の中で誓いをたてた。
この人に寂しい思いはさせない。ずっと
傍で、一緒に笑っていく。
僕は、僕が生きる意味を見つけた気がし
た。
* * * * *
優梨愛 N
幸せだった。ずっと好きだった人に想い
が通じて、おんなじような毎日が違う景
色に見えて。
ドキドキして、手を重ねると彼と同じ速
さで鼓動が脈を打っていて。
この胸の高鳴りが治まることは、きっと
ない。そう信じたい。
でも…。
耕介 「…あのさ、ユリ姉。大事な話があるん
だ」
優梨愛 N
それは週末、私の家に彼が遊びに来た時
のこと。
その日は、付き合ってちょうど半年経っ
た日だった。
耕介 「僕、好きな人ができたんだ。だから、
別れよう?」
優梨愛 N
一瞬、彼が何を言っているのかわからな
かった。またいつもの冗談だろう、と彼
の顔を覗き込む。
目が合った。でもすぐに逸らす。その顔
は冗談とかそういうものじゃない。それ
でも私は…。
優梨愛「……冗談、だよね…?」
耕介 「…別れよう」
優梨愛「……やだ」
耕介 「ユリ姉、わかって」
優梨愛「嫌!!」
耕介 「…ごめん。でも、ちゃんと伝えておき
たかったから。それじゃ」
優梨愛 N
彼は一方的に言うだけ言って、私の元か
ら離れていった。
私は泣き崩れた。恋人とかいう以前に、
幼なじみという枠すらも失ったようで、
本当につらかった。
彼が転勤になったお父さんについて引っ
越すということを知ったのは、その1週
間後だった。
突然空き家になった彼の家。幼い頃から
積み重ねてきたたくさんの思い出も、が
らんとした空間では、一生懸命記憶を繋
いで、ようやくカタチを成す。それがま
た私の心に、重くのしかかった。
* * * * *
美智子「ホントによかったの?ユリちゃんに
ちゃんと言わなくて」
耕介 「…いいんだよ、これで」
美智子「ま~たあんたは…。そんなに意地はら
なくたって」
耕介 「意地とかじゃねぇよ。ただ…。ユリ
姉、もっと泣いちゃうじゃん」
美智子「ユリちゃんならホントのこと言って
も、いいんじゃない?」
耕介 「……ふぅ(深いため息)」
耕介 N
僕は母さんが帰ってから、ベッドに横に
なって天井を見上げた。
手をのばせば天井に届きそうだけど、そ
の手は空を切って…。
静かだった。
窓越しに聞こえる救急車の音。突然慌た
だしくなる看護師たち。
そんな病院の喧騒さえ、今の僕には違う
世界のもののように思えた。
目を閉じると浮かんでくる彼女。
こんな僕にも手をさしのべてくれて、い
つだって味方でいてくれて、傍にいてく
れる。
でも彼女を、僕は自分から遠ざけた。
ただ、彼女の悲しむ姿が見たくなかっ
た。だから手を放した。
それなのに…。
それなのに、どうしてこんなに寂しいん
だろう…。
ぽつりと出た言葉は、きっと僕の本当の
気持ち…。
耕介 「会いたい…」
* * * * *
優梨愛 N
今日もまた眠れなかった。
一番大事な人に「さよなら」を言われ、
今までのことを振り返り、それでも原因
は見つからなくて…。
まだまだ伝えたいことがたくさんあっ
た。もっともっと一緒にしたいことがあ
った。
これからもずっと、私たちは変わらない
と思っていた。
でも、今、彼はいない…。
優梨愛「……コウちゃん…」
優梨愛 N
携帯の画面に映る彼の番号。あとはボタ
ンを押すだけで彼に繋がる。だけどそれ
はできない。
私にできることは、待つことだけ。
簡単には消せないこの想いを、まだ持ち
続けてもいいというのなら、私には…
っ。
私は携帯を握りしめたまま、眠ってしま
っていた。
耕介 「ユリ姉!」
優梨愛「……っ、コウちゃん!?」
優梨愛 N
彼に呼ばれた気がして、私は飛び起き
た。握っていた携帯が震えている。
優梨愛「…も、もしもし?」
耕介 「……」
優梨愛「…ねぇ、何か言って?」
優梨愛 N
誰かなんて言わなくてもわかってる。だ
からこそ、彼が今、なんで声を押し殺し
たように黙っているのか、その理由をち
ゃんと知りたかった。
だんだん大きくなってくる彼の嗚咽、鼻
をすする音。
どうしていいかわからず、私の目には涙
が溜まって…。
優梨愛「……コウ、ちゃん…?」
耕介 「(泣きながら)…ごめんっ、ごめん
っ、ユリ姉……。会いたい…」
* * * * *
耕介 N
そこにいることが当たり前だと思ってい
た。生きている間、傍にいる間に何度
《 好き 》と言えるかな、なんて考えてい
た。
でも今ここに、君の傍にいられることが
こんなにも幸せなことなんだって、君へ
の想いと高鳴る鼓動が教えてくれた。
迷わない。こんな時ぐらい、素直になろ
う。
たとえ君が悲しむことになっても…。
優梨愛「コウちゃん!」
耕介 「おいおい、ここは病院だぜ?もっと静
かに…」
優梨愛「バカ!なんで…、なんで黙ってた
の!」
耕介 N
言葉を遮られ、強く抱きしめてくる君。
せっかく気丈に振る舞おうと思っていた
のに、これじゃあ台無しだ。
耕介 「(涙を堪えながら)…っく、だ…だっ
て…、ユリ姉、泣いちゃうじゃん?」
優梨愛「こんな時まで強がってどうするの!コ
ウちゃんにとって、私ってその程度の
存在だったの!?」
耕介 「……ユリ、姉…っ」
優梨愛「我慢しなくていいんだよ?もっと素直
になってもいいんだよ?」
耕介 「…うっ、…うっ。……ユリ…」
優梨愛「(ぐすっ)…ん?なーに?」
耕介 「……会い…たか…った…」
優梨愛「…うん。私もだよ。一緒に、がんばろ
うね」
耕介 「…っ、ありが…とう…」
耕介 N
すべてを打ち明けた僕に、君は精一杯の
笑顔を向けてくれた。
つらくないはずなんてない。それでも君
は、僕よりも前を向いている。
今の僕にとって、それがどれだけ心強か
ったか、君にはわからないだろう?
あの頃と変わらない鼓動。君を想う気持
ち。
僕は次に彼女が姿を見せたとき、きっと
こう言うだろう。
「愛してるよ、ずっと…」
《 タイトルコール 》 ※1つを選ぶ
【英語 ver.】
優梨愛「 Distance 」
【日本語 ver.】
優梨愛「 二人の距離 」
+ + + +
耕介 「約束します。僕は君とともに生きてい
く」
優梨愛「 お わ り 」
fin...