声劇×ボカロ＿vol.01- R　　『 rain stops, good-bye 』

 

 

【タイトル】

 

After the rain

 

 

 

【登場人物】

 

　河那 祥子　（23）－ Shoko Kawana －

ごく普通の女性。昔から雨女と呼ばれることを気にしてる？

 

 

　御蔵 竜　（25）－ Ryu Mikura －

祥子の彼氏。明るくて無邪気な性格。

 

 

 

【展開】

・祥子視点

・竜との思い出を振り返る

・過去と現在、そして未来

 

 

 

【キーワード】

・雨（心の雨、外の雨、滴る涙）

 

 

 

 

【本編】

 

 

　竜　「ごめん。待った？」

 

 

祥子　「ううん、私も今来たから」

 

 

　竜　「そっか。はは…」

 

 

 

祥子 Ｎ：それがいつものやりとり。本当は、今でも貴方と会う日はドキドキして早く来てる

　　　 　なんて、言えるはずもなく…。

 

 　　　　そう、貴方と出会ったあの日から…。

 

 

　 　　　私は、貴方に恋してます。

 

 

 

 

＊　＊　＊　＊　＊

 

 

 

 

　竜　「はい。傘ささないと、濡れちゃうよ？」

 

 

祥子　「あ、はい。ありがとう、ございます…。あのっ、でも貴方は…」

 

 

　竜　「家がすぐそこだから。気にしないで使ってよ」

 

 

 

祥子 Ｎ：貴方に出会った日。貴方が声をかけてくれたあの場所。今でも大切な思い出で…。

 

 

 

　竜　「あれ？君、確か…」

 

 

祥子　「この前お借りした傘、返しに来ました。ここに来れば会えるんじゃないかと

　　　　思いまして」

 

 

　竜　「別によかったのに。でもありがと」

 

 

祥子　「…あ、また降ってきましたね」

 

 

　竜　「あ、ホントだ。君と会うときは雨ばっかだね」

 

 

祥子　「え？私、貴方と会うの、まだ２回目ですけど…」

 

 

　竜　「あ…。いや、会う……というか、君を見かけるときは、ね」

 

 

祥子　「あの…、私のこと、前から知ってたんですか？」

 

 

　竜　「そう…、だね。あんなところで、ずっと誰かを待ってるように立ってるん

　　　　だもん。いつの間にか気になっちゃってさ」

 

 

祥子　「え？それってどういう…」

 

 

　竜　「はい、もうこの話は終わり！傘ありがと。じゃあね！」

 

 

 

祥子 Ｎ：そういって去っていく貴方。途中で振り返って、手を振ってくれた。

 

　 　　　でもね、私はその頃、そこを通ることはあったけど、誰かを待つことなんて

　　 　　なかったんだよ？

 

　 　　　私は貴方のいうことの意味に気づきながら、それを《嘘》から《本当》にすること

　 　　　にした。

 

 

 

　竜　「あ、やっぱりいた。最近、雨が降ったら君に会えるんじゃないかって

　　　　思うよ」

 

 

祥子　「そうですか？そう言ってくれると、私も嬉しいですけど」

 

 

　竜　「そ？はは…。それで、今日は誰を待ってるのかな？」

 

 

祥子　「内緒です」

 

 

　竜　「あ、ひょっとして彼氏？」

 

 

祥子　「そんなんじゃないですけど、最近気になってきている人なのは確かですね」

 

 

　竜　「そいつ羨ましいな。君みたいな美人さんに気にしてもらえるなんて」

 

 

祥子　「美人って誰のことですか（笑）」

 

 

　竜　「え？ここには君以外いないはずだけど？（笑）」

 

 

 

祥子 Ｎ：このとき、もう言ってしまおうかなって思った。でも貴方のその笑顔を見れなくなる

　　　 　んじゃないかって思いと、ずっと見ていたいという思いが入り混じって、

　　 　　この気持ちなんて言えなかった。

 

 

 

　竜　「あ、いた。ごめんね、今日は傘、持ってきてないんだ」

 

 

祥子　「いえ、そんなことより、そっちこそどうしたんですか？」

 

 

　竜　「え？」

 

 

祥子　「なんでそんなに濡れてるんですか！」

 

 

　竜　「あー。大丈夫だよ、気にしないで」

 

 

祥子　「気になりますよ！こんなにどしゃ降りで、みんな傘さしてるのに…っ」

 

 

　竜　「…えっと、どうしたらいいかわからなくなっちゃってさ。だから雨に濡れたら

　　　　すっきりするかなぁって」

 

 

 

祥子 Ｎ：精一杯の笑顔を作ってくれた貴方。私の前ではいつも笑っていた。

　　　 　でも今日は、どこか無理して笑っているのがすぐにわかった。

 

 

 

　竜　「ごめん。今日はもう帰るよ」

 

 

祥子　「竜さん、待ってくださ…」

 

 

　竜　「（被せて）触るな！」

 

 

祥子 Ｎ：その言葉に、《嘘》は《嘘》でしかなかったのだと、単なるバカな女の勘違い

　 　　　だったのだと思った。思うしかなかった。

 

　 　　　でも私は、彼の笑顔に救われていた。彼を好きになってしまった。

　　　 　だから、その気持ちに《嘘》はつきたくなかった。

 

　 　　　一度離した手を、私はまたつかんだ。

 

 

　竜　「…離せ」

 

 

祥子　「嫌です。聞いてください、竜さん」

 

 

　竜　「聞くことなんてないから。頼むよ、離して…」

 

 

 

祥子 Ｎ：私は彼を抱きしめた。突き放されるとわかっていながら、そうせずには

　　　 　いられなかった。

 

 

 

祥子　「貴方のことが好きです」

 

 

　竜　「……え？」

 

 

祥子　「貴方が私に声をかけたのは気まぐれかもしれないですけど、私は貴方の声に、

　　　　笑顔にひかれていったんです」

 

 

　竜　「……っ、祥子さん…」

 

 

祥子　「あ、ごめんなさい急に…。でも嘘はつきたくなかったん…」

 

 

　竜　「（祥の言葉を遮るように）祥子さん」

 

 

祥子　「あ、はい」

 

 

　竜　「（ちゅっ…）」

 

 

 

祥子 Ｎ：不意のキス。なにがなんだかわからない私に、貴方はあの笑顔で言ってくれた。

 

 

 

　竜　「やっぱり君は、雨なんか似合わないよ。だって俺のもやもやをこんなに

　　　　晴らしてくれたんだから」

 

 

祥子　「え？そ、それって…」

 

 

　竜　「…聞きたい？」

 

 

祥子 Ｎ：聞きたいです。そう答える前に、貴方はまた私の唇を塞いだ。

　　　　 それが答えだった。

 

　 　　　降り続ける雨が、私たちの不安をすべて洗い流した。

 

 

 

 

＊　＊　＊　＊　＊

 

 

 

 

　竜　「じゃあ、また」

 

 

祥子　「うん。今度は私が会いに行く」

 

 

　竜　「わーかったよ。それじゃ…」

 

 

 

祥子 Ｎ：遠距離中の私たち。仕方ないこととはいえ、やっぱり別れは、手を離すのは寂しい。

　　　 　初めの頃は、目を潤ませていたっけ。彼はそれを見て、よく私をからかっていた。

 

 

 

　竜 Ｎ：あの日から付き合うことになった俺たち。でも彼女の転勤と、俺の仕事の都合で

　　　 　会う機会は極端に少なくなった。

　　 　　それでも会えたときは嬉しいし、彼女にもっと触れたくなる。

　　　 　でも、その先なんて、たぶん、きっとお互い考えてないと思う。

 

　　 　　俺との未来、どう考えているんだろう…。

 

　 　　　不安や寂しさとは逆に、彼女と会う日は天気のいい日ばかりだった。

 

　 　　　雨が降るとき、目の前のことに夢中になっているとき、それが今の自分が充実して

　　　 　いるときだった。

 

 

 

　竜　「今週末、会いに行きます……か。どうしよ…」

 

 

 

　竜 Ｎ：会いたい気持ちがある反面、正直今の関係に疲れた俺もいるわけで…。

　　　 　でもそんなこと口にはできない。

　　　 　祥子は優しいから。

　 　　　それを聞いたらきっと、自分の気持ちを押し殺してでも、俺の望むことを選ぶから…。

 

 

 

　竜　「（～♪）電話？……もしもし？」

 

 

祥子　「週末なんか予定あった？メールが急に来なくなかったから」

 

 

　竜　「別になんもないけどさ。俺だって俺の都合があるんだから、そんなにしつこく

　　　　してこなくてもいいだろ？」

 

 

祥子　「は？別にしつこくないでしょ。確認とってるんだから」

 

 

　竜　「仕事以外でも俺だって都合あるんだよ！お前はそれが許されて、俺はダメなんて

　　　　意味わかんねーよ！」

 

 

祥子　「なんで怒るのよ。なかなか返信ないから、なんかあったんじゃないかって

　　　　心配したってのに」

 

 

　竜　「心配なんていらないから。俺はお前がいなくたってやっていけ……、あ…」

 

 

祥子　「……あ、そ…。じゃあ余裕ができたら返事ちょうだい。一応週末には行くから」

 

 

 

　竜 Ｎ：私の返事を聞く前に、祥子は電話を切った。

　 　　　《またな》も《バイバイ》も言わない電話なんて初めてで…。

　 　　　でも俺もそれに対して、憤りしか生まれなかった。

 

　 　　　不意に出た言葉は本心なんて言うけれど、このときに出た言葉は、本心なんか

 　　　　じゃなかったのは確かだった。

 

　 　　　自分の言葉を反芻(はんすう)する。冗談で済まされるような言葉じゃないのはわかってる。

　　　 　そしてそれが、俺の心に暗い闇を作り、ゆっくりと、しかし確実に雨を降らせていった。

 

　　 　　現実とは真逆の、悲しい雨を…。

 

 

 

 

＊　＊　＊　＊　＊

 

 

 

 

祥子 Ｎ：貴方の声が聞きたくて、貴方に触れたくて、ただ貴方のことが好きで…。

 

　 　　　会って話をしよう。ちゃんと貴方との未来を考えてる。

 

　 　　　だから、どうか私のことを、嫌いにならないでください。

 

 

　 　　　でも、想いはいつも届かない…。

 

 

 

 

＊　＊　＊　＊　＊

 

 

 

 

　竜　「すっかり暖かくなったなぁ。お前は今何してる？」

 

 

 

祥子 Ｎ：私はきっと貴方にこう言うだろう。今日も貴方を見てる、って…。

 

 

 

　竜　「でもお前のことだから、すげーマジメな顔で、俺のこと見てるなんて

　　　　言うんだろ？」

 

 

 

祥子 Ｎ：はは、やっぱり貴方には敵わない。お見通しだね。

 

 

 

　竜　「あれからさ。あれからたくさん泣いたよ。お前の名前、ずっと呟いてた。

　　　　なんであんなこと言ったんだろうって。お前は、あの日からいつだって

　　　　俺のことを一番に考えてくれてたのにさ」

 

 

 

祥子 Ｎ：あの日、私は事故に巻き込まれて、彼と離れてしまった。

　　 　　彼に触れたくても、私は今、空にいる。

 

 

　竜　「お前がいなくなってから気づいたこともたくさんあるんだ。

　　　　俺はお前を本当に好きだったんだって。後悔もたくさんしたし、

　　　　涙なんて、この先一生出ないんじゃないかってぐらい、いっぱい流した」

 

 

 

祥子 Ｎ：《ありがとう》も《さよなら》も言えなかった。

　　 　　貴方を泣かせてしまっている。それだけが、私の心残りだった。

 

 

 

　竜　「でも、でもな。お前はきっと、俺を心配してるんだろうなって思ったんだ。

　　　　そう考えたら、俺のやるべきことがわかった気がして…」

 

 

 

祥子 Ｎ：でも、今私の目に映る貴方は、きっと大丈夫。

 

　 　　　私の最期の想いは、届いていたんだ。

 

 

 

　竜　「お前に笑われないように、がんばってるよって、ちゃんと報告できるようにするよ。

　　　　だから、これを伝えに、今日は来たんだ」

 

 

 

祥子 Ｎ：彼の中の雨が、少しずつ止んでいく。

 

 

 

　竜　「（泣くのを堪えながら）…祥子、バイバイ！」

 

 

 

祥子 Ｎ：そう言った彼の顔は、あの頃と変わらない、無邪気な笑顔そのものだった。

 

　 　　　よかった。これで私は…。

 

 

 

 

 

【タイトルコール】

 

 

祥子　　「 After the rain 」

 

 

（約３秒　間を空ける）

 

 

　竜　「また夏が終わる。もうすぐ秋になるよ。

　　　　お前の目には、今、何が映ってるんだろうな」

 

 

 

祥子 Ｎ：彼は空を見上げて、呟いた。

 

 

 

 

　竜　「お わ り」

 

 

 

 

fin...