_/_/_/ R2シリーズ(ボカロ朗読) _/_/_/
_vol.14
永遠花火
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【語り手】
東雲 香織(23) -Kaori Shinonome-
明るく、優しい雰囲気をもつ女性。
周りからも好印象を受けることが多い。
【参考】
熊谷 紘輝(21) -Hiroki Kumagai-
盲目の男性。通院先の看護士の香織に恋をする。
母親に反対されても、諦められないほど一途。
《注意》
・既存のボカロ台本の登場人物を“語り手”とした朗読。
・本編(ボカロ台本)に沿った内容。
・本編のすべてを朗読化するとは限らない。
(一部分を抜粋する可能性もあり)
【 Reading 】
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そろそろかな?
君が今日、久しぶりの検査にやってくる。
目の不自由な君。来るたびに見えてしまう、お母様への申し訳ない気持ち。
私はお母様が気を遣わないように、自然な感じで君に付き添う。
今までもそうしてきたこと。看護士と患者とその家族。関係は良好だったと思う。
君は君で、私のことを本当に信頼しているのが見えて、身体を預けてくる。
この仕事に就いて、うまくできるか心配だった私にとって、君の行動はとても嬉しかった。
患者と看護士。お互いの立場の中でも、長い付き合いだからこそわかる、君の人柄。
人見知りで最初は素っ気なかった。でも本当は優しくて、いつだって誰かの気持ちを考えてる。
目が不自由なことも、なんとかプラスに変えようとして、だけど時々落ち込んで。
その度に私は君の声を聞いていた。
君にとって、看護士として私が一番であり続けたいという気持ちは、いつしか恋心となっていた。
あの日もそう――。
お母様が急用で先に帰ってしまった時、病院の前でタクシー捕まえればよかったのに、私は駅まで付き添って
あげると提案した。
黙って帰らないように、仕事の時間が終わるまで待ってるように釘をさす。
君を一人で帰すのが心配だったことは嘘じゃない。
でも仕事の外で、少しでも君との時間を過ごせるなら、って舞い上がってたのかもしれない。
駅に着いてしばらくして、電車はやってきた。
騒然とするホームでは、駅員さんが注意を促すアナウンスをしていた。
私は君の耳にちゃんと届いてるか気になり、服の裾を引っ張って下がらせる。
目の前を通り過ぎていく電車からは、気持ちのいい風を感じた。
そして聞こえてきた君の声。
なんて言っていたのかわからなかったけど、その顔は真剣で、でも少し頬を赤らめていた。
それは数日後に行われる、夏のイベントで答えを知ることとなる。
先日の検査結果を聞きに来た君。
待合室で付き添っている時、何か言いたそうな顔をしていることに気づいた。
君が切り出すまで待っていると、近くにあった点字ライターを使って、言葉を紡ぐ。
「今夜の花火大会、一緒に行きませんか?」
打ち終わった君は、顔を見られたくないのか、私と逆の方を向いている。
私はそれがおかしくて、とても愛しく感じられて、返事を送る。
言葉じゃなくて、同じように点字で。
「何時に会う?」
返事をもらえるなんて思ってなかったのかな?
君は驚いて、どうしたらいいのか混乱してたよね。
とりあえず、時間を決めて、いったん解散。
一人になって、ようやく自分が顔を真っ赤にしていたことに気づく。
君に見てもらうことはできないけど、それでも私は浴衣を着て行こうと思った。
好きな人の前では、やっぱり可愛くいたいから。
待ち合わせ場所で君を見つけると、私は緊張を悟られないように、明るく話しかけてみた。
内心、すごくドキドキだったけど、それは君も同じだったみたい。
私の手を取って前を歩こうとする君。繋いだ手から伝わる熱、体温。
リードしてくれようとする気持ちは嬉しいけど、私はそんなこと気にしないよ?
心配しなくても、私は君の傍にいます。たとえ君に私が見えなくても。
繋いだ手から伝わる君の鼓動が、私を安心させるから。
花火が打ち上がる。打ち上がった花火に合わせて、君が何か言っている。
私の反応で、花火にかき消されて聞こえなかったことに気づいた君は、それから――。
それはあの日と同じ言葉。
君の心を正直に紡いだ、精一杯の言葉。
本当はあの日も気づいていた。二人で電車を待っている時。
でも自信がなかった。私なんかでいいのかな、って思っていた。
それを知ってか知らずか、今度は花火に負けないように、何度も何度も大声で伝えてくる。
「あなたが好きです!」って。
嬉しかった。本当に、本当に…。
自然と流れた涙が、私の偽りのない気持ち。
君に泣いてるとこを見られないのはわかっていたけど、顔を隠したくて、私は君に抱きつく。
そしてもう一度花火が打ち上がった時、私は君の純粋な想いに、そっと耳元で応えてあげた。
それを聞いた君は、手さぐりで私の顔に触れてくる。
君の手にも、流れた涙が伝う。でも探し物は涙じゃなかった。
きっと君は今、こう思ってるんでしょう?
「こんなカッコ悪いキスでも、いいですか?」なんて。
関係ないよ、そんなこと。
私たちは心で繋がってる。君が私を見れなくても、触れることはできる。話だってできる。
カッコいいとか、カッコ悪いとか、そんなものはいらない。
ただ一緒にいたい。理由なんてそれだけで十分。
口にはしないけど、私たちはきっと同じことを考えていた。
時の許す限り、傍にいたい、恋していたい。
十年先も、その先もずっと…。
大変な時は一緒に乗り越えて、その度にまた心を繋げて。
たくさんの色で思い出を作ろう。目に見えることがすべてじゃない。君がいれば信じられる。
そうして互いを一途に想って心に咲くのは、きっと永遠に咲き続ける花火。
何度でも伝えるよ。「大好き」って。
fin...