交錯バレンタイン
【登場人物】
小阪 爽一 - Soichi Kosaka ー
無自覚な笑顔(可愛い)を振りまく少年。
畑中 梢 - Kozue Hatanaka ー
幼なじみとの恋を夢見る少女。
【本編】
爽一 「…俺、ずっと梢のこと好きだったんだ」
梢 「え、ちょ。急にそんなこと言わないでよ」
爽一 「近すぎて気づかなかった?俺さ、梢となら、この先もずっと…」
梢 「がんばれる、とか言うの?……ふふ、私もおんなじ気持ちだよ」
* * * * *
梢 「…むにゃむにゃ、私も大好きだよ~、爽ちゃ…」
爽一 「おーい、梢ぇ。早く起きないと、遅刻するぞー」
梢を覗き込む爽一。
目を覚ます梢。
爽一の声に飛び起き、布団でパジャマ姿を隠す。
梢 「…っ。な、なんであんたがここにいんのよ!?」
爽一 「はぁ?なんでって、明日早いから、起こしに来いって言ったのは誰だよ」
梢 「私そんなこと言ってな………。あ…」
爽一 「あっそ。勘違いだったなら、俺先行くな。じゃ」
梢 「言った、言った!言いました!…き、着替えるから出てって!」
爽一 「へーへー」
着替えを済ませ、外で待つ爽一の元へ急ぐ梢。
梢 :彼はいわゆる幼なじみで、1つ年上の“小阪爽一”。これまたよくある話
だけど、親同士がすごい仲がよかったためか、自然と私らも互いの部屋を
平気で行き来するような感じになった。
でも、彼は一度起こしに来ると、いつも外で私を待っていた。
顔見知りなんだから、家(うち)の中で待っててもいいのに…。
梢 「ごめん、寒くなかった?」
爽一 「おう、じゃ行くか」
梢 :寒くないわけないのに…。息、白いよ、もう。鼻の頭赤くなってるし…。
爽一 「あ、そうだ」
梢 「な、なに?今さら忘れ物したとか言わな…」
爽一 「おはよう。まだ今日言ってなかったろ?」
梢 「…っ/// お、おはよう!」
梢 :…こ、この天然。反則だってわかってんのかな、その顔。
可愛いから、もう…。好き…。絶対言わないけどね。
* * * * *
爽一 「じゃあ、また明日な。つっても、明日は俺早朝から合宿でいねーけど」
梢 「わかってるよ。別に爽ちゃんいなくても、大丈夫なんだからね!」
爽一 「へー。寂しくなって、メールとかしてくんなよ!」
梢 「そ、そんなことしないもん!平気だもん!」
爽一:幼なじみの“畑中梢”は、まぁ、なんというか、ちょっと面倒くさい性格だ。
普段、強気なくせに、たまにメールや電話で寂しいとか言うし、
家自体、近所だから、会おうと思えば会えるが、それは俺が面倒くさい。
だってアレなんだよ、そういう時は毎回、何かと理由つけて、変に心配させて
俺を来させようとするんだよな、こいつは。
梢 「な、なに見てんのよ?」
爽一 「ふ~ん。お兄ちゃんを頼ってもいいんだぞ?(笑)」
梢 「ば、バカじゃないの?気持ち悪いこと言わないでよね!」
爽一:おいおい、今日は《気持ち悪い》かよ。ほんと、素直じゃねーな。
* * * * *
梢 :はぁ~あ。つまんないなぁ。そうだ、爽ちゃんにメールし……って、
そんなんじゃ、またからかわれるじゃん!
やっぱり、私って爽ちゃんにとって“妹”でしかないのかな…。
嫌だな、そんなの…。
突然、梢の携帯が鳴る。
着信表示には爽一の名前。
梢 「え、爽ちゃん?爽ちゃんから電話とか珍しー。今度は私がからかってやろ。
もしもし、爽ちゃん?やっぱり私いないと寂しいの?(笑)」
爽一母「あ、梢ちゃん?」
梢 「そ、爽ちゃんのお母さん?ごめんなさい、私今変なこと…」
爽一母「爽一が、爽一が…」
梢 :……え?………事故に、、あった……?…え、……誰が…?
私は、その先の爽ちゃんのお母さんの言葉が、何も聞こえなかった。
頭が……真っ白になってた…。
今日はバレンタイン。爽ちゃんが帰ってきたら、真っ先に渡そうと思ってた
のに、チョコを渡すことすらも、神様は許してくれないのかな…。
梢 「(涙を滲ませながら)……爽…ちゃん…っ」
* * * * *
爽一 「よっ、久しぶり!」
病院のベッドでいつもの笑顔で梢を迎える爽一。
唖然とする梢。
梢 「…っ、なんで元気なの?」
爽一 「なんでって、元気じゃわりーのかよ?」
梢 「そうじゃなくて!だって、爽ちゃんのお母さんが、爽ちゃん事故にあったって」
爽一 「はぁ?事故も何も、合宿所の風呂でバカやりすぎて、ケガしただけだっつーの」
梢 「……じゃあ、ほんとに何もないの?死んじゃったり……しないの…?」
爽一 「おい、勝手に殺すな。お前だって、うちの母さんの性格知ってるだろ?
昔っから、大げさで困ってるぐらいだろう…が…。梢…?」
梢 「ばか…」
爽一 「へ?」
涙が頬を伝う梢。
梢 「ばか。私、爽ちゃんがいなくなったら、どうやって生きていけばいいの?」
爽一 「はは、なんだよ。お前にも母さんの心配性が移ったのか?大丈夫だって
言ってるだ…」
梢 「ほんとに心配したんだからね!どうしようって!せっかく爽ちゃんのこと
好きなんだって気づいたのに、伝えられないまま、さよならするなんてって
思ったんだから!!」
爽一 「…え、お前今…、なん…て…?」
梢 「そりゃ、爽ちゃんにとっては、私は“妹”なのかもしれないけど、それでも
爽ちゃんが私に構ってくれるなら、って…!でも、でも…」
爽一 「……お前、何持ってんの?」
梢 「え、あ…っ…。……はい、チョ、チョコ…。初めて作ったからおいしくない
かもだけど…」
落ち着きを取り戻し、顔を赤くする梢。
爽一から目を逸らし、チョコを手渡す。
爽一 「ん、サンキュ。で、さっきは何だって?」
梢 「さっきって……、…っ///」
爽一 「よく聞こえなかったんだよなぁ。なぁ、もう一回言ってよ?」
梢 「や、やだ…」
爽一 「ふ~ん。じゃあ、これは受け取れないな~」
梢 「ちょ、なんでそうなるのっ…!さっきは『サンキュ』って…」
爽一 「じゃあ言えよ。ほら。俺が、なんだって?」
梢 「………す、好き…で……///」
言葉を遮って、梢にキスをする爽一。
爽一 「(ちゅっ)やっと言ったな。まったく、おせーっつーの」
梢 「な…/// え、ちょ…っ」
爽一 「俺もずっと梢のこと、好きだったよ」
梢 「じゃあ、なんで言ってくれないの!」
爽一 「だってアレだろ?最近は女から告白するのが流行ってんだろ?(笑)」
梢 「バ…バッカじゃないの!?そんなんで私のことからかってたの!?」
爽一 「はは、いいじゃん別に。だって今日は、ほら、そういう日、だろ?」
梢 「…もう」
梢 :いろいろなことがありすぎて、疲れたのか、私はその夜、すぐに眠った。
* * * * *
梢 「…むにゃ、爽ちゃん、だいす…」
爽一 「おーい、梢ぇ。早く起きないと、遅刻するぞー」
梢 「…って、あんたなんでここにいるのよ!」
爽一 「なんてって…。どうせ爆睡してんだろうなって思って、わざわざ起こしに
来てやったんだろうが」
梢 「そうじゃなくて…!あ、あの。爽ちゃん。私って爽ちゃんの何?」
爽一 「なんだよ、急に。知りたい?」
梢 「い、いい!着替えるから、早く出てって!」
爽一 「へーへー」
梢 :…全部、夢…だったのかな?だって今までと何も変わってないもん…。
爽一 「あ、そうだ」
梢 「もう、今度は何ですか!」
爽一 「……彼女。さっきの答え」
梢 「え?」
爽一 「さっさと着替えろっつーの」
梢 :にかっと笑って、さらっとそういうこと言って…。敵わないよ、貴方には。
爽一 「お?今日は早いじゃん」
梢 「へへー。ね、私のこといつから好きだったの?」
爽一 「……言わねぇ。絶対言わねぇ」
梢 :“彼女”。ようやく手に入れた彼の隣は、今までと同じようで、少し違ってて、
でも、思ってた通り、ほっこりする温かいものがあった。
少しずつ変わっていくであろう“未来”に、私はドキドキして仕方なかった。
梢 「ねぇ、爽ちゃん。大好きだよ」
爽一 「なっ…///」
Fin...