恋するお年頃?
【登場人物】
館山 那智 -Nachi Tateyamaー
普通の高校生。女の子に多少の免疫あり。
響 音祢 -Otone Hibikiー
館山家の隣に引っ越してきた中学生。幼い頃、兄を亡くしている。
【本編】
那智 「ふわぁ…、ねっみ~。今何時だ……よっ…!?」
音祢 「ふにゅ~。むにゃむにゃ…」
那智 「!?……、え…?」
那智:誰だ、この子!?俺、なんでこの子と寝てるんだ??
いや、待てよ。思い出せ…。俺は昨日、、、って普通に寝たじゃねーか!
音祢 「…う~ん、お兄ちゃ~ん」
那智:「うおっ、なんで急に抱きついてくんだっ…」
思わず声を出してしまう那智。
目を覚ます音祢。
音祢 「…ふにゅ?……んー、(目を擦りながら)あ~、お兄ちゃんおはよ~」
那智 「お、おう…」
音祢 「あれ?お兄ちゃん、音祢にいつものアレしてくんないの…?」
那智:アレ?アレってなんだああああああ!!!!
そうか、これは夢だ。俺はまだ夢を見てるんだな。そうか、だったら…。
那智 「あー、ごめんなぁ。ほら、ぎゅーっ、と」
音祢 「ほえ?違うよ、お兄ちゃん。はい、おはよーのちゅー…」
那智 「…ぶっ!? いやいやいや!無理、それは無理だから!」
那智:いくら夢とはいえ、朝からキスなんてできるか!
しかも、こんな幼そうな子となんて…!
目を瞑り、キスを催促する音祢。
音祢 「…んー、お兄ちゃんまだぁ~?」
那智:夢なんだろうけど、一応聞いてみるか…。
那智 「……あのさ、君、だれ?」
那智:ようやく寝ぼけた頭が復活したのか、彼女の第一声はこうだった。
音祢 「…んー?…あ、そっかそっか。ごめんなさい。そして、初めまして!」
* * * * *
音祢 「昨日お隣に引っ越してきたんだぁ。仲良くしてねっ」
那智 「いや、なんつーか…。無理」
音祢 「ちょ、ひどーい!なんでー?」
那智 「なんでじゃねーよ。自分の胸に手を当てて考えてみろ」
音祢 「胸…。はっ…。悪かったわね!どうせ胸なんてないもん!」
那智 「そこじゃねーよ!バカだろ、お前!」
音祢 「バカとか言う人がバカなんですぅ」
那智 「……てんめ…(怒)」
那智:どうやら音祢が隣に引っ越してきたことは本当らしい。
実際、この後『帰る』と言って、数時間後にまたウチにやってきた。
今度は家族全員で。いわゆる《挨拶まわり》というやつだ。
しかし、どうしても腑に落ちないことがある。
だってあいつ、あんなナリであんな声してるくせに、中学生だって言うんだぜ?
しかも高2の俺の2つ下って…。
マジ信じらんね…。
館山家のインターホンが鳴る。
音祢 「那智にぃ、いる~?」
那智 「だからなんでお前は、そう勝手に入ってくんだよ」
音祢 「え?だって鍵開いてたよ?」
那智 「いや、だとしてもだなぁ。……あー、もういいや。で、なに?」
音祢 「へへ~、一緒にお買い物いこぉ」
那智:こうやって出会った当初から、俺は音祢に振り回されてる。
天真爛漫?違うな。ただの天然?これも違う。
なんつーか…、破天荒ってのか、こういうの…。はぁ…。
マジで予測不能だもんな、こいつの行動…。
音祢 「ねね、どうせなら手繋いでこーよ」
那智 「は?やだ」
音祢 「なぁんでー?いいじゃん、ね?」
那智 「誰かに見られたらどうすんだよ」
音祢 「だーいじょーぶだってばー。ね、お願い。那智にぃ~い」
那智:結局ポケットにあったはずの俺の手は、強制的に、彼女の手と体温を共有
したのだった。
ほんと、なんなんだよ、もう…。
* * * * *
音祢 (「やだ!なんでお兄ちゃんとお別れしないといけないの!?
ねぇ、お母さん!!」)
那智 「てめぇ…、今日も懲りずに俺の部屋に侵入とは…」
音祢 「ふぇ?………あ、那智にぃ…」
那智 「…なんだよ?」
音祢:私にはずーっと小さい頃に、大好きなお兄ちゃんがいた。
そう「いた」んだ。年がすごく離れてたけど、優しくて、あったかくて…。
自慢のお兄ちゃんだった。
今の家に引っ越してきたとき、そんなお兄ちゃんに見えたのが那智にぃなんだ。
那智にぃは気づいてないだろうけど、私、知ってるんだよ?
那智にぃが、すごく優しい人だって。ほんとはあったかいんだって…。
毎日毎日、那智にぃを困らせてるのはわかってるんだけど、仕方ないじゃん。
……好きに、なっちゃったんだもん…。
もう、あの時みたいに、辛い思いしたくないんだもん…。
那智 「ほら、起きたんなら、学校行け」
音祢 「え?那智にぃは行かないの?」
那智 「俺は今日休みだ。わかったら、さっさと行け」
音祢 「むぅ~、じゃあ音祢もがっこー休む~」
那智 「バカなこと言ってねーで、早く行け。そしてもう少し寝かせろ」
音祢 「那智にぃのバカ!いぢわる!じゃあね、バイバイ!!」
那智 「はいよ~、いってらっしゃ~い」
* * * * *
隣に違和感を覚える那智。
那智 「おい、こら!いい加減にしろよ、音…っ、祢……?」
ナツ 「な~お」
那智:なんだ、お前だったのか…。
あれから、あの日から音祢はさっぱり来なくなった。
最初はやっとぐっすり眠れると思っていたが、なんというか、もの寂しい。
あいつが――音祢みたいなのが珍しかったからなのか、
ただ、張り合える相手がいなくなったからなのか。
なんにせよ、俺の日常に音祢が割り込んできたのは事実で…。
なんでこんなに気になってんだよ、俺っ!
那智 「あいつ、泣いてたりしないよな…」
* * * * *
亡き兄の夢を見ている音祢。
音祢 (「(泣きながら)ぐすっ、お兄ちゃん…。置いていかないで…」)
+ + + + +
那智 「音祢!早く行くぞ、今日遅刻したら、マジでやばい!」
+ + + + +
兄の影に重なる那智の姿。
音祢 「(泣きながら)ぐすっ、那智にぃ…」
那智 「……祢、音祢…」
夢から覚める音祢。
音祢 「………那智…にぃ…?」
那智 「はは、マジで泣いてた(笑)」
音祢 「な…泣いてないもん…」
那智 「ほんとかぁ?じゃあ、顔見せてみろよ、っと」
背ける音祢の顔を無理やり向かせる那智。
音祢 「なにすんのよ…っ!……っ///」
那智 「…久しぶりに顔合わせたな。まったく、なんで俺がいないとこで
泣くんだよ」
音祢 「だから泣いてないもん!それに別に、那智にぃと会えなくて泣いてたんじゃ」
那智 「へー。そのわりに嬉しそうじゃん」
音祢 「うるさいなぁ、もう!それに、なんでここいるの!?」
那智 「ん?おばさんにどうしてるか聞きに来たら、留守番頼まれてさ、なぜか」
音祢 「そ、それで?」
那智 「そしたらお前、風邪だって言うじゃん?だから、さ…///」
音祢 「……私のこと、心配してくれた…の…?」
那智 「…っ、なんか、つまんねーんだよ、お前いないと。女の子と手繋いだり、
買い物行ったりするのなんて、お前が初めてだったし、妹ができたみたい
だったし…」
音祢 「……私は…、“妹”なの…?」
那智 「…わかんねーよ。そうかもしれないし…」
音祢 「(ちゅっ)…っ///」
那智の言葉を遮って、唇を重ねる音祢。
突然のことに、言葉を失う那智。
那智 「…なっ…、おま…っ」
音祢 「これでも私は妹?だったら私は別にそんなの望んでな…」
那智 「(言葉を遮って)ごめん!そんなことない!俺ん中で気持ちは
出てたんだ。ただ、自信がなかったんだよ…」
音祢 「自信なんて誰だってないよ!私は、私は…!(ぐすっ)」
那智 「…あーあ、俺情けないよな、ほんと。……俺は、音祢が好きなんだ。
なんにもない俺の日常に入ってきたお前だったけど、それからの毎日が
なくなったのは……、正直寂しかった…。それでようやく、お前が好きなんだ
って気づいたよ…」
音祢 「……那智にぃ。(ぐすっ)那智にぃ~」
那智に飛びつく音祢。
どうしたらいいかわからない那智。
那智 「な、なんだよ。そんな甘えたお前見ても、調子狂うんだけど」
音祢 「いいじゃん、別に!私も大好きだよ、お兄ちゃん」
那智 「だあああああああ!!その呼び方だけは、なんとかしろおおおおお!!!」
Fin...