舞って、粉雪。
【登場人物】
広瀬 悠美(19) -Yumi Hirose-
大学1年生。気持ちを素直に口に出す女の子。
でも恋愛感情はまた別の話。
崎浜 慎(24) -Shin Sakihama-
社会人2年目の青年。
落ち着いた物腰で、温和な性格。甘い展開は苦手。
【展開】
・久しぶりのデート。二人が出会ってちょうど1年の日
・恥ずかしがる“ゆた”を見て楽しむ“てこな”
・季節外れの雪が舞う。桜も散る春。幻想的な風景。
・記念日にそんな奇跡を一緒に見られた二人。
【本編】
悠美 :今日はあの日。あの人と出会った大切な日。
偶然だよね?きっとあの人は覚えてないもん…。
慎 「お?やっと来たか」
悠美 「ごめんって!ちゃんとメールしたんだから許してよ~」
慎 「怒ってるなんて言ってないだろ?ほら、早く行こうぜ」
悠美 :こうやって私が遅刻したときも、彼は怒ることなく接してくれる。
それがたまに、物足りなかったりもするのだけど…。
慎 「あ、そういやアレ持ってきた?」
悠美 「アレ?……あ、うん。はい、これでしょ、忘れてったのって」
悠美 :そう言って私は彼に腕時計を渡した。前にウチに泊まったときに忘れて
いったもので、結構お気に入りらしい。
慎 「おー、サンキュ♪…(時計をつけて)これこれ。なーんかしっくり
こなかったんだよな、他のじゃ」
悠美 「それってそんなに大切なものなの?」
慎 「は?だってこれ……。いや、なんでもない」
悠美 「なに?言ってよ、気になるからぁ」
慎 「やだ。内緒(笑)」
悠美 :私よりも年上で、社会人の彼。でも、こういう無邪気なところに、
魅かれたんだと思う。私と一緒で、普段恥ずかしいセリフなんて
絶対言わない人だけど。例えば…、“好き”…とか。
悠美 「…(呟いて)言ってほしいときもあるんだけどなぁ…」
慎 「え?なに?なんか言った?」
悠美 「え…?あ、ううん。なんでもない」
慎 「…ふーん。お!懐かしいな、この店。まだここにあったんだ!」
悠美 「もー、またそうやって子どもみたいに。…いいよ、入ろ?」
慎 「誰が子どもだって?…って、お前なにニヤニヤしてんだよ?
絶対また《かわいい》とか思ってるだろ…?」
悠美 「えー、そんなこと思ってないよぉ?」
慎 「ならいいけどさ」
悠美 :このやりとりも久しぶり。しばらく会ってなかったから、彼が無邪気に
なると、どうしても顔に出ちゃうみたい。だから、ちょっと意地悪した
くなったりする。
慎 「ま、軽くここでメシ食ってって…」
悠美 「慎さん」
慎 「ん?どうし…(た)」
悠美 「(遮って)かわいい」
慎 「(吹きだして)ちょ、おま…/// い、いいから早く入るぞ」
悠美 「は~いっ♪」
* * * * *
慎 :まったく、ほんと変わってないな、こいつは。
天然というか、素直というか…。
ただ、あの《かわいい》っていう言葉には、悪意を感じる。
店を出た俺たちは、ある場所に向かって歩いていた。
悠美 「そういえば、今日ってどこかに行きたいって言ってなかった?」
慎 「あー、うん。いいから、ついてきて」
悠美 「えー、また内緒なのぉ。あ、ひょっとして何かサプライズとか?」
慎 「…お前がそれを口にしてる時点で、サプライズなんてなんねーだろ」
悠美 「えー、私きっと驚くよ?喜ぶよ?」
慎 「うー、さみっ。もうすぐ4月も終わるってのに、寒すぎじゃねーか」
悠美 「ちょっと!無視しないでよっ!」
慎 :そこから少し歩いたところにある小高い丘。
その丘のてっぺんに桜の樹があった。
《孤桜》(こざくら)
周りに同じような桜の樹はなく、孤独に咲き続けることから、そう呼ばれ
るようになった一本桜だ。
そして、俺がこの街で一番落ち着く場所でもある。
悠美 「ここ?連れてきたかったところって」
慎 「そ。そういやまだだなって思ってさ」
悠美 「慎さんのお気に入りの場所?」
慎 「うん。ほんとは満開のときに連れてきたかったんだけどさ。こんなに
遅くなって…。もう散り始めてるなぁ」
悠美 「ううん。嬉しい…」
慎 「お?今日は素直じゃん?」
悠美 「今日は、ってなに?私いつも素直ですけど!」
慎 「え?そうなの?(笑)」
悠美 「ひどっ。あ!ねぇ、この桜って珍しい樹なのかな?」
慎 「へ?なんで?普通の桜のはずだけど…」
悠美 「え、だって白い花びらが……、あっ」
慎 「…マジかよ。ありえねぇ。でも…」
悠美 「うん。綺麗だね…」
慎 :舞い散るピンクの花びらに混じって現れた白い花びら。
季節外れの…《雪》。
まさかの共演に、俺たちは心を奪われていた。
慎 「あー、こんな薄着で来るんじゃなかったなぁ」
悠美 「そうだね。…帰る?」
慎 「いや、もうちょっと見ていきたい。いい?」
悠美 「私は慎さんのなに?そんなこと聞かなくてもわかるでしょ?」
慎 「(はは…)だな(笑)」
悠美 :この人と一緒にいれるなら、どこだって構わない。でも今は、ここに来て
よかったと心から思ってる。彼の隣で、同じ空、同じ景色を見上げて、
笑いあう。ただそれだけのことが、すごく幸せに思えたから…。
慎 「なぁ、悠美…」
悠美 「なーに?」
慎 「…今から少し恥ずかしいこと言ってもいいか?」
悠美 「うん。なに?」
慎 「……俺、お前と出会えてよかった。こうやってこんな奇跡を見れたことも、
お前が隣にいてくれたからなんじゃないかって思うよ」
悠美 「え…、それって…」
慎 「今日は俺とお前が出会った日。あの時計も、悠美と出会う直前に
買ったものなんだよ。だから、なんていうのかな。お守り…みたいな?」
悠美 「…だからあんなに大事にしてたの?」
慎 「わ、悪いかよ/// それだけ今は俺、お前のこと…っ///」
悠美 「私のこと…?」
慎 「……っ、いや、その…っ」
悠美 「私がなーに?言ってくれないのぉ?」
慎 「……っ。 す、好き…なんだよっ」
悠美 「(ふふ…)かーわいー」
慎 「なんでだよ、おい!かわいくなんてねーから!それだけは譲らねぇ!!」
悠美 「えー。じゃ~あ…。ずっと一緒にいるよ?大好きっ」
慎 「…なっ!? お、おう…///」
悠美 :目をそらした彼を見て、自然と笑顔になる私。
さっきまで降っていた雪も止んで、今は桜が舞うだけの場所で、
私たちは、ある願い事をした。
慎 「ら、来年も」
悠美 「一緒に桜、見れますようにっ」
(タイトルコール)
慎 「舞って、粉雪。」
悠美 「おーわーりっ」
Fin...