Bound for Last Terminal ~ Episord.4 それぞれの翼
【登場人物】
佐久間 一樹(21) -Ikki Sakuma-
幼い頃に遭った出来事に、責任を感じている。そのせいで、口数の少ない青年に育つ。
日本国 防衛相 自衛航空部隊 第六戦闘小隊 所属のパイロット。
香山 柚姫(17) -Yuki Koyama-
12年間眠り続ける少女。眠っている間も、成長はしているが、目覚める気配はない。
幼少期は明るくて活発な女の子だった。
香山 重雄(64) -Shigeo Koyama-
柚姫の祖父。柚姫の両親に代わり、眠ったままの柚姫の面倒をずっと見てきた。
一樹も恐れる頑固親父。通称、重じい。
香山 充(43) -Mitsuru Koyama-
柚姫の父。民間自衛組織所属の戦闘機パイロット。一樹の師。
香山 瑞樹(39) -Mizuki Koyama-
柚姫の母。民間自衛組織所属の作戦立案担当。一樹の母とは旧友。
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* * * * *
一樹 N:僕は不思議な気持ちだった。目の前で大切な人を失うかもしれないのに、とても落ち着いていた。
一樹 「莉奈先輩。今日こそ終わりにしてみせます。もう、誰かが悲しむのは見たくないですから。
僕たちが戦う理由、先輩が生きた意味。今日それを掴み取ってきます」
一樹 N:村中にサイレンが鳴り響く。作戦開始の合図。僕は滑走路に見立てた田舎道から、
再び空に飛び立った。
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C.V 柚姫
Bound for Last Terminal
第4話 = それぞれの翼 =
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瑞樹 「あなた。決して無茶なことはしないでくださいね」
充 「ああ。いつもみたいにすぐに戻ってくるさ。…と言いたいところだが、今日はそうもいかないな」
瑞樹 「…ええ。あの子が立派に仕事ができるように、しっかりお膳立てしてあげないと」
充 「……なぁ、瑞樹」
瑞樹 「はい?」
充 「俺たちは、あの子に何か残してあげれたかな」
瑞樹 「あの子は、誰よりも人の気持ちがわかる子です。私たちの決断は、きっと間違っていませんよ」
充 「親としては、最低なんだろうがな。それでも」
瑞樹 「ええ。あの子の傍にいることを選んでいたら、あの子は私たちを追い返していたでしょうね」
充 「はは、だろうな。……行ってくる」
瑞樹 「お気をつけて…」
柚姫 N:抱き合い、別れる二人。ともに、娘を想う親の目から、覚悟を決めた人の目に変わる。
次々に飛び立つ希望の光。祈りを、想いを乗せて、生き残りをかけた最後の戦いが、始まる。
* * * * *
一樹 N:決戦前日の夜、柚姫のお父さん、僕にとっては先生である充さんから電話があった。
あの大敗で僕の所属していた第6戦闘小隊は、全滅。
つまり僕は、唯一の生き残りだった。
だからというわけじゃないが、充さんの口添えで、僕の任務は“とある場所”の死守。
“あの”第6小隊の生き残りというだけで、融通がきいたらしい。
充さんがそこをどれほど重要視させたのかはわからないが、これで僕には迷いが消えた。
柚姫 N:私の頭上を、たくさんの戦闘機が飛んでいく。しばらくして、近いところで爆発音が聞こえた。
高台にある思い出の場所。嫌でも目に入ってしまう、砕け散った残骸。
パラパラと落ちる塵のように、その音さえも聞こえてきそうなほど、無残に命の灯が消えていく。
一樹 「柚姫…。僕は君との約束を守る」
柚姫 N:彼の声が聞こえた気がした。
直後、村中に響き渡る轟音とともに、一機の戦闘機が飛び立つ。
私はそれを眺めて、そして、目を瞑った。
刹那、宙に浮く感覚が私を襲う。
どうしてだろう。初めてのはずなのに、不思議と落ち着いている。
それでも私の中の不安と緊張はおさまらない。
届くはずのない彼へ。届いてほしいという願いをのせて、私は呟く。
柚姫 「……一樹くん…」
一樹 N:事前に聞いた情報と、現状を照らし合わせる。“UnKnown”の空母が3隻と、それに追従する戦闘機が 約50機。いずれもこちらに向かってきている。
作戦本部が決めた防衛陣形が機能しているからまだいいものの、次々とあがる爆炎と圧倒的な
戦力差が、じわりじわりと防衛ラインを押し下げていく。
一樹 「そう、長くはもたない…か」
充 「こちら“Future Clocks”ホワイト1、香山。聞こえるか、一樹!!」
一樹 「えっ、先生!?どうしてここに…」
充 「子を守るのが親の務めだ。組織を率いているとか、責任とか関係ない。
最後ぐらい、俺の好きなようにするさ」
一樹 「先生…」
充 「お前はどうなんだ?望みは?願いは?……その手で引鉄をひく理由が、お前にはあるのか!?」
一樹 「無論です。だから僕はあいつを…」
充 「ふっ、聞くまでもなかったな。イエロー小隊!佐久間一樹を援護せよ。絶対にやつを死なせるな!」
一樹 N:先生の命令後、僕の後方に3機の機体がついた。先生の乗る機体は、僕を追い抜いていき、
その左右・後方から、さらに3機ずつ、計10機の戦闘機が前線に赴いていく。
一樹 「先生。ありがとうございま…」
充 「一樹。最初で最後の俺のわがままだ。できるだけあいつを、柚姫を“人として”生かしてやってくれ」
一樹 「……っ、はい」
充 「頼んだぞ」
一樹 N:そう言って、先生は僕の元を離れていった。
一度は決めたはずの覚悟。払拭したはずの迷い。
自分にできるだろうか。自分に溺れているんじゃないのか。
そんな思いは完全に消え去った。
この場を任されている。人の願いを、祈りを背負っている。
人の数だけの気持ちが、今ここには集まっているのだ。絶対に、負けられない。
周りを納得させるために手に入れた翼。でもきっと、導かれていたのかもしれない。
こうなるとわかっていた彼女に、彼女を守るための力を手にすることを。
* * * * *
柚姫 N:聞こえる。たくさんの声が。
聞こえる。人々の想いが。
怒りも悲しみも、不安な気持ちでさえもが私に集まってくる。
助けたい。終わらせたい。
その手が引鉄にあっても、まだ引けない。
消えゆく声と渦巻く感情を必死に抑えこみ、意識をなんとか保ちながら、
私はその一瞬を待っていた。
一樹 N:陣形の後方にいた僕にはよく見えた。
あっけないほど味方が次々に散っていく。
仲間を鼓舞するように声をあげ、心が折れないように声をかけ、絶対に諦めないと自分の心に誓う。
その瞬間が来るまで、何が何でも死ねない。
たとえ一人になったとしても、必ず約束を果たす。
+ + + +
重じい「いってきます、か。己が犠牲になるというのに、なんて顔で笑うんじゃ、あの子は」
一樹 N:重じいは家の縁側でそう呟いた。
村と運命を共にする、という他の村民たちと同様、重じいもまた村を離れる気はなかった。
何より必ず帰ってくる。いや、帰ってきてほしいという願いがあったからこそ、
離れられないでいた。
重じい「充、お前の娘はわしらの知らぬ間に立派になっておったぞ。お前に似て強気で、
でも優しいところは瑞樹さん譲りかの」
一樹 N:空を見上げる重じいの目には、花火のように様々な閃光が映る。
時折鳴る地響きにも動じず、若い世代の生き様を、その命の行く末をただ見守っていた。
重じい「本当に情けない話だな。わしらのような年寄りが指をくわえているしかできないというのは。
だからこそわしらはこの村を、あの子らの帰る場所をつくって待っておる。だからお前も
その務めを果たしてこい、充」
+ + + +
充 「くそっ、前線は総崩れだ!本部!俺たちはどうすりゃいい!」
充 N:自分の左右・後方に展開していた味方機は、一時間もしないうちに半分以下に
なっていた。
他の前線投入部隊の旗色も悪く、目に見えて負け戦。
それでも諦めるわけにはいかない俺たちは、必死に食らいつき、逃げのび、
なんとか持ちこたえている。
充 「本部!聞こえるか、瑞樹!」
瑞樹 『今の防衛ラインを後退させてください!ただし敵を誘い込むような形で徐々に後退を!』
充 「(嘲笑うように)はっ、無茶を言う。だが…」
充 N:追いかけていた敵機をロックオンし、撃墜する。
直後、また別の敵機に後ろを取られた。
充 「やるしかねぇか!!よーし、お前ら聞こえたな!敵を誘い込みつつ、防衛ラインを後退させる!」
兵士 「隊長!!」
充 N:近くを飛んでいた仲間から声をかけられたと同時に、そいつの声が消えた。
眩(まばゆ)い光と立ち上る煙が、そいつの撃墜を知らせる。
背後に迫っていた敵機の攻撃が俺の機体を捉え、それに俺よりも早く気づいた
そいつが身代わりとなったのだ。
充 「ばかやろう…っ!」
充 N:残骸の間を潜り抜け、仇討ちとばかりに敵機を墜とす。
しかし彼が身を挺して救ってくれたこの命もまた、いつ失ってもおかしくない状況であることに
変わりなかった。
母艦を墜とさない限り、増え続ける敵戦闘機。
誘い込めと言われても、そう待ってはいられない状況。
その一瞬を迎えるまで、いったい俺たちはどれだけの犠牲を…。
考えても仕方なかった。その時が少しでも早く来るように祈る。
たとえそれが、娘を失う時とわかっていても。
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≪次回予告≫
C.V 一樹
ついにその時はやってきた。
溢れ出る想いが、柚姫に力を与える。
そして世界は…。
次回、最終話。 = 君と僕と… =
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第4話(完)