Bound for Last Terminal ~ Episord.2 君がいたから
【登場人物】
佐久間 一樹(21) -Ikki Sakuma-
幼い頃に遭った出来事に、責任を感じている。そのせいで、口数の少ない青年に育つ。
日本国 防衛相 自衛航空部隊 第六戦闘小隊 所属のパイロット。
香山 柚姫(17) -Yuki Koyama-
12年間眠り続ける少女。眠っている間も、成長はしているが、目覚める気配はない。
幼少期は明るくて活発な女の子だった。
香山 重雄(64) -Shigeo Koyama-
柚姫の祖父。柚姫の両親に代わり、眠ったままの柚姫の面倒をずっと見てきた。
一樹も恐れる頑固親父。通称、重じい。
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* * * * *
一樹 M:柚姫…。君が目覚めたのなら、僕は…。
柚姫 「……くん?…一樹くん?」
一樹 M:柚姫の声がする…。あの時、あの離陸時に聞いた時の声と同じ…。
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C.V 一樹
Bound for Last Terminal
第2話 = 君がいたから =
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柚姫 「一樹くん!」
一樹 「へ!?……え、あれ?ゆ、柚姫…?ここ、どこだ…?」
重じい「おう、目が覚めたのか。よかったな、一坊(いちぼう)」
一樹 「し、重じい…?じゃ、じゃあここは…」
柚姫 「うん。神根村だよ」
一樹 「…きょ、今日は何日だ?僕はどのぐらい眠って」
柚姫 「2日。墜落のショックと大けがで、2日眠ってたよ」
一樹 「戦況は?あれから世界は…っ」
重じい「落ち着け。お前さんらが大敗してから4日経ったが、まだどこも落ちてはおらん」
一樹 「これが落ち着いていられるか!もう、僕たちに戦力はほとんど残ってないんだぞ!」
重じい「知っておる。だからこそ、皆はいつも通りの生活をしようと腹を決めたのじゃ。
まぁ、この村の者たちだけじゃろうがな」
柚姫 「大変だったね、一樹くん…」
一樹 「柚姫…。あ…、そうだ…。お、おはよう…」
柚姫 「ふふ、おはよう」
一樹 N:敵母艦が出現してちょうど一週間後、気持ちの整理もつけられないまま、
すぐに出撃命令が下った。“Under6”全勢力投入という大規模な作戦。
しかし、それはあまりに無謀すぎた。ただ人々に恐怖を植え付けただけの
愚かな行為。それがずっと国を守ってきた者たちの末路だった。
重じい「一坊、お前はもう少し休め」
一樹 「そんなこと言ったって、先輩も死んで!仲間もたくさん死んでって…!
何もわからない小さな子どもまで巻き込んで…!」
重じい「一坊…」
一樹 「そもそもあいつら何なんだよ!突然現れて、僕たちの日常を奪っていって!
どうしたらいいんだよ!僕たちの命は、そんなに軽いものなのかよ!!」
柚姫 「一樹くん…」
重じい「よっこらせっと…。もう気は済んだか?それだけ喚(わめ)けるなら、大丈夫じゃろ。行くぞ」
一樹 「……い、行くって、どこに?」
柚姫 「行こ、一樹くん」
一樹 N:僕の手を引く柚姫。昔はどこか放っておけない感じだった彼女が、
何かを覚悟したかのような顔をしている。
ようやく目を覚ました彼女。その手は確かに温かくて、でも力強くて。
昔話に花を咲かせるような状況ではないとはいえ、やはり僕はあの頃の彼女と
重ねて、柚姫を見ていた。
柚姫が背負った運命にも気づかずに…。
* * * * *
重じい「この場所を、覚えているか?」
一樹 「……こ、ここは…」
一樹 N:覚えているに決まってる。柚姫と作った最後の思い出の場所。
柚姫が眠りについた、忌まわしき場所。
重じい「ここはな、わしらのご先祖が眠る地と言い伝えられてきたところなんじゃ。
大昔には、ここに真っ赤な鳥居があったそうじゃ」
一樹 「……今は、ねえな」
重じい「そう、今はない。なぜじゃと思う?必要なくなったからじゃ」
一樹 「…どういうことだ?」
重じい「伝承通りだとすれば、わしらのご先祖は力を持ちすぎた。それ故、非人道的なことを条件とし、
力を封印した。世界を変えてしまうほどの巨大な力を」
一樹 「だから、どういうことだよって…!」
重じい「…これだけは、したくなかった。絶対に避けるべきじゃった。だが、世界は待ってはくれなかった。
あの日から、こうなることは決まっておったのじゃ」
一樹 「…あの日…?……ちょ、まさかあの日って…!」
柚姫 「なんだって。だから、せっかく会えたのに、またすぐお別れなんだ。ごめんね」
一樹 「…お、おいおい。待てよ…。それでなんでお別れになるん…」
重じい「非人道的な条件。それは、血族の者が“贄(にえ)”となること。巨大な力の発動には、
その力を収める“器”と弾き出す“心”が必要不可欠とある。よって…」
一樹 「だから!なんでその役を柚姫がしなきゃならないんだよ!
柚姫は、最近目覚めたばっかりなんだ…ろ…」
重じい「…わかったか?“力”とは人々の“心”。希望、願い、夢から、怨恨、後悔、絶望といった負の感情まで、 すべてを“器”に収め、それを“贄”のありったけの感情で爆発させる」
一樹 「…なん、だよ…それ…」
重じい「わしらは香山家。かつての氏(うじ)は“神山”。神に仕えし、一族の末裔じゃ」
一樹 「意味…わかんねえ、よ…」
重じい「世界の滅亡が迫ったタイミングでの、柚姫の目覚め。“器”に“心”が集まったからこそ、
この子は目覚めたのじゃ」
一樹 「意味わかんねえって言ってるだろ!!だいたいさっきから何だよ!
“器”とか“贄”とか!柚姫は柚姫だろ!!僕の幼馴染で、ドジだけどいつも笑ってて、それで…っ」
柚姫 「…一樹くん」
一樹 「何が巨大な力だ!そんなんで“UnKnown”を倒せるはずないだろ!
ただの宇宙人じゃないんだ!あいつらは、あいつらは…」
柚姫 「ありがとう、一樹くん。でもね、私はなぜだかこうなるってわかってた。
そして、私ならきっとみんなを護れるって思ったの。だから…」
一樹 「ふざけんな!そんな信憑性のない伝承なんかで、柚姫を殺されてたまるか!!
僕は、僕はずっと柚姫が目覚めるのを待って…たん…だ…っ」
柚姫 「うん、うん。知ってるよ。私が起きたときに、何も変わってない平凡なあの頃みたいに
してくれようと、必死に頑張ってきたんだよね」
一樹 「……っ、ゆ…き…」
柚姫 「大切な友達が、お世話になった人たちが亡くなっても、それでも戦ってきたんだよね?」
一樹 「…ゆ、き……っ」
柚姫 「だから、だからね。今度は私の番。私に、あなたの“明日”を護らせて…」
一樹 「柚姫…。ダメだ、柚姫のいない明日なんて、僕にはなんの意味もない…」
柚姫 「安心して。私なら、大丈夫だよ!」
一樹 N:あの頃の屈託のない笑顔。無邪気さはそのままに、心だけ手が届かないほど大きくなって。
柚姫の周りに、光が漂い始める。今度は僕にもはっきりと見える。
覚悟を決めた彼女。その目に迷いは、ない。だとしたら、僕にできることは…。
重じい「一坊。お前の夢は何だった?」
一樹 「……っ、鳥…に、なること…」
重じい「なら、まだ飛べるな?翼は繊維の集合体でも、機械の塊でもない。お前の…」
一樹 「俺の…“心”…」
重じい「折れたなんて、言わせねえぞ?」
一樹 「はっ、折ってたまるかよ!僕が、柚姫に最高の道を作ってやるよ!」
* * * * *
一樹 N:柚姫の覚醒に導かれるように、“UnKnown”の母艦は進路を変え始めた。
まるで、磁石に引き寄せられる金属のように、一斉に神根村を目指していた。
一樹 「つまり、僕の役目は、母艦が一定の距離に近づくまで、戦線を維持すること」
重じい「そうだ。おそらく柚姫のことを世界に伝えたところで、反応なんぞわかりきっている。
だから戦力に関しては、お前に頼るしかない」
一樹 「この国の戦力は、ほぼ壊滅してる。でも、母艦がここを目指してきているおかげで、
他の国の戦力は、自然とこちらに向かうだろう」
重じい「だが一斉攻撃でも仕掛けない限り、無駄に戦力を消耗させるだけじゃろ」
一樹 「さすがにその辺は、お偉いさんもわかってるさ。さっき通信が入ってね。
明後日正午、世界中の全勢力をもって、今度こそたたきつぶすってさ」
重じい「そうか…」
一樹 「重じい、柚姫は?」
重じい「ん?あの子なら、買い物に行きよったぞ」
一樹 「買い物ぉ?何してんだよ、こんな時に」
重じい「こんな時、だからじゃ。時間はもうない。お前も、柚姫と同じ時間を過ごしてやってくれ」
一樹 「はっ、言われなくても」
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≪次回予告≫
C.V 重じい
束の間の平穏。一樹は柚姫の願いを叶えようとするが、
柚姫は特別なことはしたくないと告げる。
覚悟を決めた少女の想いに一樹は…。
次回、第3話。 = 一時(ひととき)の日常 =
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第2話(完)