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Bound for Last Terminal ~ Episord.1  カウントダウン

 

 

【 登場人物 】

 

 佐久間 一樹(21) -Ikki Sakuma-

幼い頃に遭った出来事に、責任を感じている。そのせいで、口数の少ない青年に育つ。
日本国 防衛相 自衛航空部隊 第六戦闘小隊 所属のパイロット。


 香山 柚姫(17) -Yuki Koyama-
12年間眠り続ける少女。眠っている間も、成長はしているが、目覚める気配はない。
幼少期は明るくて活発な女の子だった。


 葉山 莉奈(23) -Rina Hayama-
第六戦闘小隊所属で、一樹の高校時代の先輩。一樹の教育も兼ねて、バディを組むことになる。
普段おっとりしているせいか、周囲からはなめられがちだが、操縦の腕は一級品。


 香山 重雄(64) -Shigeo Koyama-
柚姫の祖父。柚姫の両親に代わり、眠ったままの柚姫の面倒をずっと見てきた。
一樹も恐れる頑固親父。通称、重じい。

 

 

 

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一樹 N:あの頃は、毎日が楽しかった。
     僕が育ったところは、娯楽などない、ただ山や畑、田んぼばかりの田舎だった
     けれど、それでも“生きている”という実感があった。
     縁日、山登り、川遊び、夏にはホタルもやってきた。
     そんな田舎が、僕は大好きだった。
     そしてそこにはいつも、あの子がいた。

 

 

 

柚姫(幼) 「ねえねえ、一樹くん。アイス持ってきたから、はんぶんこしよ?」

 


一樹(幼) 「わぁ、ありがとー。今日は何して遊ぼっか?」

 


柚姫(幼) 「あのね、わたし、どうしても行ってみたいところがあるんだ。
       おじいちゃんには絶対行くなって言われてるんだけど…」

 


一樹(幼) 「重じいに?それってヤバくないかなー?」

 


柚姫(幼) 「だいじょうぶだよー。だって、わたしには一樹くんがついてるもん!」

 


一樹(幼) 「…え?あ、うん…。……えへへ。ボクはずっと、柚姫ちゃんの傍にいるよ!」

 


柚姫(幼) 「うん!わたしもずっと、一樹くんといるー」

 

 

 

一樹 N:僕もあの子も、無邪気だった。大人たちに注意や警告を受けていたとしても、
     その頃の子どもは好奇心の方が勝るものだ。
     “行ってみるだけ”。危ないことは絶対にしないし、すぐに帰ってくる。
     そう考えていた。でも…。
     僕たちに足りなかったもの。それは、危ないかそうじゃないかの、判断力。
     今ならはっきりそう言える。だからあの子は、柚姫は、今僕の隣にいない…。

 

 

 


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C.V 柚姫


Bound for Last Terminal

第1話 = カウントダウン =


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* * * * *

 

 

 


莉奈 「おーい、一樹ぃ。一樹くーん」

 


一樹 「…ぅん。あ、先輩」

 

 

 (眠っていた一樹)

 

 

莉奈 「どうしたの、うたた寝なんて珍しいね」

 


一樹 「……すいません」

 


莉奈 「別に謝らなくてもいいんだよ。ただそろそろ起きておいた方がいいと思ってね」

 


一樹 「…夢、見てました」

 


莉奈 「ん?あー、前に話してた幼馴染の子?」

 


一樹 「はい…」

 


莉奈 「そっか」

 

 

 

一樹 N:先輩はそれ以上、何も聞いてこなかった。
     先輩には高校時代、あの子――柚姫のことを話したことがある。
     そのことがあるからか、僕は先輩には、他の連中と比べると心を
     開いていた方だと思う。
     それも、いつまでできるかわからない。僕たちは死と隣り合わせの場所に
     立っているのだ。

 

 

 

一樹 「…先輩」

 


莉奈 「お?呼び出しみたいだよ、後輩くん」

 

 

 

一樹 N:出撃を知らせるサイレンが、僕たちから一時(ひととき)の平穏を奪っていった。

 

 

 


* * * * *

 

 

 


柚姫 M:なんだろう、この気持ち。何か大切なものを忘れてきたような感覚。
     私、どこにいるの?
     一樹くん…?…どこ?私はここにいるよ…?

 

 

 


* * * * *

 

 

 


莉奈 「いい?説明は以上。お偉いさんの判断で、すぐ出ることになっちゃったから、
    無線でのブリーフィングになったけど、大丈夫よね?」

 


一樹 「(小声で)……え?」

 


莉奈 「…え、って聞いてなかったの?あー、もう!今は時間ないから、またあとで簡単に…」

 


一樹 「(小声で)…柚姫?」

 


莉奈 「え?」

 

 

 

一樹 N:柚姫の声が聞こえた気がした。夢を見た後だったから、その余韻が残ってるだけ
     だと思ったが、少し違う。
     僕の知る柚姫の声は、柚姫が眠りにつく前の幼いものでしかない。
     でも今聞こえた声は、僕の名前を呼んだその声は、確かに柚姫のものだと、
     僕の直感がいっていた。
     ただ彼女は今、ここから遠く離れたあの思い出の場所にいる。

 

 

 

莉奈 「一樹くん!行くよ!はい、何て言うの!」

 


一樹 「…あ、はい。ヘマしないでくださいね」

 


莉奈 「えー?なんでそれなのー?…じゃあ、一樹くん。死んだら殺すよ?」

 


一樹 「(動揺して)うえぇ?」

 


莉奈 「(笑いながら)はは、なんてね!ちゃんとついてきなさいよ!」

 

 

 

一樹 N:了解、と返事をして、僕たちは空へと飛び立った。
     彼女の目覚めを知らせるメールが届いていたことも知らずに…。

 

 

 


* * * * *

 

 

 


柚姫 「一樹くん…」

 

 

 

柚姫 N:私が眠りから覚めた最初の言葉が、彼の名前だったらしい。
     そう重じぃが教えてくれた。
     12年も眠っていた私。でもなぜか世界の状況はわかっていて、彼が今必死になって何かを護ろうと

     しているのがわかった。
     それでも、私は彼の傍にいたくて、彼に傍にいてほしくて…。
     会える時間が少ないこと、話す時間が少ないことが、なんとなくわかっていたから…。

     あの日のことは、今も鮮明に覚えている。

 

 


一樹(幼) 「柚姫ちゃんが来たかったところって、ここ?」

 


柚姫(幼) 「うん。ちょっと前にね、お家(うち)のご本で見たんだけど、すごくキレイだったから、

       一回見てみたいなって思って」

 


一樹(幼) 「キレイ、かなぁ。だってここ、まだお昼なのに真っ暗だし、あっちには変な棒が立ってるし…。       なんか気持ち悪いよ」

 


柚姫(幼) 「そう?でもなんだかキラキラしたものがいっぱいあって、そんなに真っ暗じゃないよ?」

 


一樹(幼) 「キラキラしたもの…?どこー?」

 


柚姫(幼) 「あっ!ほら!一樹くん、見て見て!コレだよ、コレ…。あれ、一樹くん?」

 

 

 

柚姫 N:あの頃の私は、彼の存在が強さとか自信とかに繋がっていた。
     だから彼を見失ったこと、彼が私の前から姿を消したことが、私の不安を駆りたてた。

 

 

 

柚姫(幼) 「一樹くーん!一樹くーん、一樹…くん…。(ぐすっ)いっき…く…。
       うわあああああん…!!」

 

 

 

柚姫 N:ひとしきり泣いた後、私は、彼が変だと言っていた棒のすぐ下で、彼を見つけた。
     でもその安堵感と不安から解放されたことが相まって、私はその場で眠ってしまった。

     そして、今、12年もの月日が経過して、私は目覚めた。

 

 

 

重じい「目覚めたばかりで悪いが、あの時のことを話してもらうぞ。なぜ言いつけを破った?」

 


柚姫 「……本で見たの。おじいちゃんのお部屋にあった古い本を偶然見つけて、
    その時見たページがすごく綺麗だったから」

 


重じい「…あれか。……見えたんだな?」

 


柚姫 「う、うん。でも写真で見たような鳥居みたいなのはなかったけど」

 


重じい「…(ため息をついて)他には、何か覚えてないか?」

 


柚姫 「あの場所のこと?」

 


重じい「そうだ」

 


柚姫 「キラキラしたもの、ホタルみたいなのが私の周りを飛んでたような、そうでないような…」

 


重じい「……そうか。柚姫、一坊(いちぼう)がいるところを教える。行ってきなさい」

 


柚姫 「おじいちゃん…。私っ…」

 


重じい「お前に時間がないことは、わしもわかっとる。父さんやみんなにはわしから言っておく。

    だから行ってきなさい」

 


柚姫 「あ、ありがとう、おじいちゃん…」

 

 

 

重じい N:眠っていたことが嘘のように、柚姫はわしの元を離れていった。
      なんということだ。嫌な予感が当たってしまった。
      いや、柚姫が眠りについたときから、覚悟はしていたつもりだったが…。
      あの小さな体に、すべてを懸けろというのか。なぁ、神よ…。

 

 

 


* * * * *

 

 

 


莉奈 N:彼の様子がいつもと違った。いつも以上に研ぎ澄まされた感覚。巧みな操縦。
     すべてが今までと段違いだった。
     彼の成長を素直に喜ぶべきなのか、それとも…。
     歓喜よりも不安だけが大きくなっていった。

     それでも確かに、今日は私たちが戦況を有利に進めていた。

 

 

 

一樹 「先輩!2時方向に機影!僕が行きます!」

 


莉奈 「あ、うん!援護します!」

 


一樹 「その必要はないですよ。少し空が荒れてきました。先輩は周囲を警戒してて…。
    え、なんだ…?」

 


莉奈 「どうしたの?」

 

 

 

一樹 M:計器の異常か?いや、それにしたって…。
     前方にあるのは発達した積乱雲と敵機一機だけ。
     …一機?本当にそうなのか?…待てよ。今僕たちの布陣は…。

 

 

 

莉奈 「なんだか不気味ね、あの雲。一個小隊ついてきて。偵察に行くわよ。
    そういうわけだから、こっちはお願いね、一樹くん」

 


一樹 「(呟いて)発達した積乱雲…。張り合いのない“UnKnown”…。
    レーダーが時折探知する異常な熱量…。
    ……っ!ダメだ、先輩!!戻ってください!!」

 


莉奈 「そんな大げさな。ただの雲じゃない」

 

 

 

一樹 N:雲の隙間に一瞬光が灯った。……来る!

 

 

 

一樹 「先輩、早く!早く離脱を!!」

 


莉奈 「安心しなさい。私が敵をちゃーんとやっつけてあげるから」

 


一樹 「くっ…。第6小隊及び海上、空域に展開する“Under6”全員に伝える!
    速やかに撤退せよ!繰り返す…」

 


莉奈 「ちょっと、一樹くん!あなたにそこまでの権限は与えられていないわよ!」

 


一樹 「お願いします、先輩!早く、早く逃げてください!!」

 

 

 

莉奈 N:私が感じていた不安。それは、彼に対してではない。私自身に対してのものだった。
     そう気づいたときには、すべてが手遅れだった。

 

 

 

一樹 「先輩!!」

 

 

 

莉奈 N:視界を覆い尽くす闇。その直前に視認できた巨大戦艦。そしてそこから放たれた、
     地獄へと誘う黒き光。

 

 

 

莉奈 「あっ…」

 

 

 

一樹 N:先輩とその一個小隊が、放たれた閃光に貫かれ、爆散した。
     道連れとでもいうように、後方の部隊も次々に散っていく。

 

 

 

一樹 「くそっ、進軍しすぎたんだ。有利な戦況だと思い込まされた。僕たちは、
    あいつらの掌の上で踊ってただけだったんだ…っ」

 

 

 

一樹 N:僕は先輩の代理として、指揮をとった。海上の空母も、空域の指令艦隊も失った
     僕らは、ただ逃げまどうしかなかった。
     今は、明日へと繋ぐ“命”を一つでも多く残すこと。それだけだった。

     熾烈な攻撃をかいくぐって、ようやく基地に戻ったときには、
     仲間の7割を失っていた。
     そして例の“UnKnown”の母艦。あれは同日同時刻に全世界で確認され、
     そのすべてが、主要都市に向けて動き出していた。
     これが何を意味するか。聞くまでもなかった。カウントダウンが始まったのだ。
     そう、人類滅亡へのカウントダウンが。

 


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≪次回予告≫

C.V 莉奈


目覚めた柚姫。しかしそれには理由があった。
突きつけられる嘘のような現実に、一樹はある決意をする。
自身のもつ信念に、再び火を灯して…。


次回、第2話。 = 君がいたから =

 

 

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第1話(完)

 

 

 

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