Bound for Last Terminal ~ Last Episord 君と僕と…
【登場人物】
佐久間 一樹(21) -Ikki Sakuma-
幼い頃に遭った出来事に、責任を感じている。そのせいで、口数の少ない青年に育つ。
日本国 防衛相 自衛航空部隊 第六戦闘小隊 所属のパイロット。
香山 柚姫(17) -Yuki Koyama-
12年間眠り続ける少女。眠っている間も、成長はしているが、目覚める気配はない。
幼少期は明るくて活発な女の子だった。
香山 重雄(64) -Shigeo Koyama-
柚姫の祖父。柚姫の両親に代わり、眠ったままの柚姫の面倒をずっと見てきた。
一樹も恐れる頑固親父。通称、重じい。
香山 充(43) -Mitsuru Koyama-
柚姫の父。民間自衛組織所属の戦闘機パイロット。一樹の師。
香山 瑞樹(39) -Mizuki Koyama-
柚姫の母。民間自衛組織所属の作戦立案担当。一樹の母とは旧友。
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* * * * *
柚姫 「あと少し…。もう少しだから…」
柚姫 N:目を閉じていてもわかる。たくさんの命が失われていること。
一樹 「うおおおおおおおっ!!!」
充 「ここは絶対に通さん!!」
柚姫 N:彼が、お父さんが、たくさんの人たちが道を作ってくれていること。
瑞樹 「…あなた」
柚姫 N:大切な人の無事を祈る人。
重じい「…柚姫」
柚姫 N:いつだって私のことを一番に考えてくれた人。
私は本当にたくさんの人たちに支えられて生きている。
それはきっとこれからも続くんだと思っていた。
私の傍には彼がいて、一緒に笑って、怒って泣いて。そんな当たり前の日常を送れる日が
来るんだと信じていた。
でももう、それはできない。
だから今の私にできること。
大切な人たちの、未来を守る。
その想いを、集めた想いと共に…。
一樹 「柚姫!!」
柚姫 N:聞こえてきたのは彼の声。私の大好きな声。
一樹 「いいか、俺たちはあいつらなんかに簡単にやられはしない!余計なことは考えるな。
お前のできること。その時を待て!」
柚姫 「…一樹くん…」
一樹 「お前は絶対に俺が守ってやる!だから……おっと、あぶねー」
柚姫 N:閉じていた目を思わず開けてしまう。途端に宙に浮いていた身体が地面に足をつけた。
でもそれは合図。引鉄を引ける準備が整った合図だと、なんとなくわかった。
そして今声を出せば、彼にそれが届くことも…。
柚姫 「一樹くん…」
一樹 「…!?…柚姫?」
柚姫 「ちゃんと聞こえるかな?一樹くん」
一樹 「聞こえる!聞こえるよ、柚姫!」
柚姫 「あのね、私、小さい時からずっと伝えたかったことがあったの。でもあの日に私は眠っちゃって、
もう一生言えないのかなって思ってた」
一樹 「……うん」
柚姫 「それでね、この間目が覚めた時、その気持ちをどこかに忘れてきたのかな。
何を伝えたかったのか思い出せなくて、でも一樹くんの顔を見て、一緒にいて、
すぐに思い出したよ」
一樹 「……うん」
一樹 N:柚姫が何を言いたいのか、僕はわかっていた。おそらくその予想は当たっているだろう。
でも頷くことしかできない僕は、彼女の言葉に耳を傾けていた。
柚姫 「……あのね…」
一樹 「…うん。……柚姫?」
一樹 N:黙り込んでしまった柚姫。それと同時に柚姫のいた丘に光が射す。
そして僕らにも見える高さにまで彼女は浮かんできた。
一瞬見えた彼女の目からは、涙が溢れて…。
柚姫 「(涙を堪えながら)…一樹くん」
一樹 N:涙を堪えようとする声が響く。耳に残る。
その時が来たのだとわかる。
一樹 「…ゆ…」
柚姫 「(泣きながらも笑顔で)……大好きだよっ」
一樹 N:名前を呼びかけた時、柚姫は笑顔でそう言った。
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C.V 柚姫、一樹
柚姫 「 Bound for Last Terminal 」
一樹 「 = 君と僕と… = 」
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一樹 N:僕が目を覚ましたのは、病院のベッドの上だった。
あの戦いの後、僕らを光が包み、それが消えた時には、敵の姿はどこにもなかったという。
そして彼女の姿も…。
一人の少女の命を犠牲にして守られたこの世界。
彼女が世界を守ったことを知る者は少なく、人々は夢だとか、奇跡が起きたとか言っていた。
でも確かに彼女はあの時そこにいて、最後まで一緒に戦っていた。
力を解き放つ鍵が、あの言葉だったなんて、今でも信じられない。
でもそれは、あれから5年経った今でも、しっかりと耳に残っている。
柚姫 「一樹くん!」
一樹 N:彼女の声が聞こえる。
彼女は今頃、空から僕らを笑顔で見守っているんだろう。
一樹 「重じい、具合どう?」
重じい「お前に心配されるなんて、俺も落ちぶれたもんだな」
一樹 「まったく元気なじいさんだよ、あんたは」
一樹 N:入院している重じいのお見舞いに来た僕は、憎まれ口をたたかれながらも、
いつかの日常を感じていた。
そこに一緒にいるはずだった彼女の影を瞼(まぶた)に映して。
重じい「これから行ってくるのか?」
一樹 「うん。今日はあいつの誕生日だからな」
重じい「そうだったな。よろしく言っといてくれ」
一樹 「さっさと身体治して、自分で行け」
重じい「やかましい。早く行ってこい」
一樹 「はいはい」
一樹 N:村に来るのは久しぶりだった。
あの日乗っていた僕の翼。どういうわけか、墜落したのはあの丘だった。
今ではその残骸が、僕と彼女を繋ぎとめているような気がした。
いや、きっと僕がそう思いたかったんだ。
一樹 「柚姫、ただいま。んで、誕生日おめでとう」
一樹 N:あれだけのことがあったにも関わらず、世界はまた混乱に陥ろうとしている。
大切な人を失い、命の儚さを学んだはずの人間は、再びその手に銃を取ろうとしている。
今だから思う。
結局最後まで正体が掴めなかった“UnKnown”は、僕ら人間に命の尊さを教えるために
現れたんじゃないかって。
でもそれで失われた命は、そう考えるにはあまりにも多すぎて、誰かの、何かのせいにしたくて
たくさんの感情が生まれた。
だから彼女のような存在が必要とされたんじゃないかって。
一樹 「ま、だとしても、それがお前だったってのは、やっぱり納得いかないかな」
一樹 N:この先、もしまた同じようなことが起ったらどうすればいいのだろう。
もう誰かに縋(すが)るのは嫌だ。自分たちで何とかしたい。でもそれには力が必要だ。
神山の血はこれで途絶えた。これで途絶(とだ)…。
柚姫 「……ただいま」
一樹 「…ゆ…き…?」
柚姫 「えへへ。よくわかんないけど、私、生きてたよ」
一樹 N:姿は5年前のあの日のまま。
眠っていた時とは違い、あの日のままの彼女がそこにはいた。
理由はわからない。でも彼女がそこにいる。それだけで今は十分だった。
一樹 「柚姫!!」
* * * * *
重じい「そろそろかの。喜んでいいんじゃろうが、結局“血”は絶えぬか。一族の呪いは世界の呪い。
人々の心から良からぬ感情が溢れた時、いずれまた“贄”を捧げる時が来るのかもしれぬな」
一樹 N:この時の僕はまだ、帰ってきた彼女の命がそう長くはないことを知る由もなかった。
重じい「“血”を残すためだけに戻りし姫よ。わずかな先の未来に、幸あらんことを…」
fin...