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ボカロ台本  オリジナルストーリー

 


泣キ虫カレシ  -未来編-

 

 

 

 

【登場人物】

 

 須山 了平(20) -Ryohei Suyama-
泣き虫だった頃が嘘のように、我慢強くなった。
心に残る優希子のことが忘れられない。

 


 汐見 優希子(22) -Yukiko Shiomi-
就職の決まった大学生。
優しくて、思い切りのいい面は変わっていない。

 

 

 

 

【キーワード】

 

・成人式
・再会
・成長
・心の鍵

 


【展開】

 

・成人式で帰省した了平。久しぶりの風景に、馳せる思い。
・ちょうど帰省していた優希子と再会する了平。
・優希子の想いを黙って聞く了平。その目に涙はない。
・自分の気持ちを告げる了平。ずっと閉じていた気持ちの鍵を開ける。

 

 

 

 


《注意(記号表記:説明)》

 

「」 → 会話(口に出して話す言葉)
 M  → モノローグ(心情・気持ちの語り)
 N  → ナレーション(登場人物による状況説明)

※ただし「」との区別をつけるため、MおよびNは、:(コロン)でセリフを表記する。
 また“N”の中に心情(M)を含ませることもあり。

 

 

 


【本編】

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄


了平 N:成人式の案内が届いた。久しぶりに中高の友達に会えるから、と僕は2年振りの帰省をすることに。

     たった2年帰ってなかっただけなのに、ものすごく景色が懐かしく見えた。
     それもそのはず、かな。
     思い出の景色は、僕がこの地を離れるまでずっと目に焼き付いていたんだから。


     僕は今、あの歩道橋から街を見下ろしている――。

 

 


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優希子「泣キ虫カレシ After Story」

了平 「 Tears of Love 」
    (ティアーズ オブ ラブ)

 

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優希子 N:就職も決まり、今年は実家に帰省していた私。
      ふとカレンダーを見て気づく。

 

      あぁ、そうか。もうすぐ成人式なんだな、って。


      私の成人式は2年前。2年…ということは、今年は彼も…。

      思い出の中の彼は、泣き虫で、強がりで、一生懸命笑ってくれていた。
      私はそんな彼が大好きだった。

 

優希子「懐かしいなぁ…。元気にしてるかな?」

 

 


 + + + +

 

 


了平 「変わんないな、ここは。街並は変わっても、見える夕陽は変わんない」

 

了平 N:あれから少し背も伸びて、記憶の中よりも高い位置からの景色ではあった。
     だけど陽の当たる角度や温かさは、今もあの日のまま。

     彼女は元気にしているだろうか。ふとそう思った。


     『またね』と再会の約束をしたわけじゃない僕ら。
     『じゃあね』と手を離した僕ら。

     ただ一つ、あの時彼女がかけてくれた“魔法”が、今も僕を支えている。


* * * * *


優希子 N:懐かしい景色、蘇る思い出。
      私は自然とあの場所へと足を運んでいた。

      そこに、彼はいた。

 

 

了平 「(背伸びして)んー、そろそろ行くかー」

 


優希子「え……。りょう、へい…?」


了平 「ん?…え、あ。ゆき…ちゃん?……はは、久しぶり」

 


優希子「…うん。久しぶり」

 

 

優希子 N:そこは思い出の歩道橋。私が彼に“さよなら”を伝えた場所。

 

了平 「帰ってきてたんだ?」


優希子「うん。就職も決まったし、来年は帰ってこられるかわからないから」

 


了平 「就職決まったんだ!?おめでとう!」

 


優希子「ん、ありがと」

 

 

優希子 N:なんだか不思議な感じだった。
      彼は見た目はそんなに変わっていないのに、雰囲気がだいぶ違っていた。
      泣き虫だった彼は、もういないみたい。

 

優希子「了平は…、成人式?」

 


了平 「そ。こっちの友達が絶対来いって言うからさ」


優希子「そうなんだ」

 


了平 「……うん」

優希子 N:き、気まずい…。
      彼もそうなのか、あまり目を合わそうとしてこない。

      …と思っていたんだけど。

 

了平 「どうしたの?」

 


優希子「う、わっ!」

 


了平 「お、おおっ。びっくりした…!」


優希子「なななな、なに!?いきなり顔近づけてきて…!」

 


了平 「いや、なんかボーっとしてたから」

 


優希子「し、し、してた?そんな顔…」

 


了平 「え、うん」

 

 

優希子 N:顔立ちはあの頃とそんなに変わっていないから、私はドキドキしてしまった。

      ドキドキ、してしまった…。

 

了平 「はは、なんか安心した」

 


優希子「な、なにが?」

 


了平 「優希ちゃん、全然変わってないみたいだから」

 


優希子「了平は、変わったね」


了平 「そう?」

 


優希子「うん。堂々として見えるな。泣き虫で弱虫だったあの頃が懐かしいよ」

 


了平 「ツヨムシさんに怒られちゃうと思ってね。がんばったよ」

 


優希子「それ誰のこと?」


了平 「さぁ?誰だろうね」

優希子 N:誤魔化す了平。笑った時の、あのくしゃくしゃ感は健在なようで、私はまたドキドキしてしまっていた。
 

      こんなことじゃ、バレてしまうんじゃないか、って思うくらい。

      本当はずっと会いたかった。……なんて言えるわけないよね。


 + + + +


了平 N:まさか再会するなんて思っていなかった。
     帰ろうとしたら、そこにいるんだもん。そりゃびっくりするよ。

 

     でも思っていた以上に心は落ち着いていて、思わず涙が零れるなんてこともなかった。
     やっぱり少しは成長してるのかな、って実感できた。やっと、ようやく。

 

優希子「ななな、なに!?」

了平 N:(笑って)なに、って。

     考え込むように顔を伏せていたから声をかけたっていうのに、ひどいなぁ、もう。

優希子「堂々として見えるよ」

了平 N:変わったことを伝えたい人がいた。見せたい人がいた。
     魔法はあの日からずっと効いたままだって、教えてあげたい人がいた。

     でもそれは言っちゃいけない気がした。
     別れた今でも想ってるなんて、口になんてできなかった。

     だってそうだろう?
     きっと彼女には、僕の知らない誰かがもう傍にいるんだろうから。


* * * * *

 


優希子「……じゃあ、帰るね」


了平 「あ…っ」

 


優希子「ん?なーに?」

 


了平 「あ、いや…。なんでも、ない…」

 


優希子「(一呼吸)……。ねぇ、途中まで一緒に行こうか」

 


了平 「あ、うん…」

 

優希子 N:さっきまで平然としていたその顔は、帰ると言ってから寂しそうなものに変わる。

      あーあ、もう。
      そんな顔されると、期待しちゃうじゃん。バーカ。

 

      こんなに素敵になった君に、彼女がいないわけなんてないのにね…。

了平 N:それはほとんど無意識で、声が出てしまったことも予想外で。
     平気なフリしてても、やっぱり嘘はつけないみたい。

     それでもその嘘を突き通したくなるのは、僕らの関係が、あの日あの時に終わってしまったことを
     知っているから。


     僕らは今はもう、ただの……知り合い――。

優希子「えっと…、4年振り?地元は同じなのに、一回も会わなかったね」


了平 「ほんと。なのに今日会っちゃうとかなんなの?運命?」

 


優希子「あはは、運命って。単なる偶然でしょ」


了平 「あー、ひっでー。そこでバッサリかよー」

 


優希子「(笑って)合わせたらドキドキしてくれたの?あの時みたいに?」

 


了平 「それは優希ちゃんの言い方次第かなー」

 


優希子「あはは。なに、それ」

 

優希子 N:冗談とわかっていても、運命と言われて、私は一瞬ドキッとしてしまった。
      それがバレないように、私は会話を繋ぐ。気づかれてはダメ。

了平 「優希ちゃんさ、今彼氏とかいないの?」

 


優希子「(苦笑いして)なに、急に」


了平 「いや、なんとなく?大学でも優希ちゃんモテそうだなって」

 


優希子「うち女子大だよ?そんなことより、了平こそどうなのよ」


了平 「へ?俺?」


優希子「そうそう。了平こそ、女の子が放っとかないと思うけどなぁ」


了平 「ないない。休みの日はバイトだし、仲いいのは男ばっかだし」


優希子「へー。もったいない」


了平 「それ、俺のセリフ」

 


優希子「えー、私出会いなんてなかったもーん」


了平 「じゃあ、これからだ。就職も決まったんだし、ベタに社内恋愛とか?」


優希子「そんなうまくいったら、苦労しないよ。恋愛なんて」

了平 N:こんな日が来るなんて思っていなかった。
     昔の彼女とお互いの恋愛話をするなんて。

     割と自然に話せてよかったと思うのに、ホッとしたのはやっぱり恋人がいないということ。
     誰かのものじゃない、というだけで、僕の心は空を飛べるくらい軽くなっていた。

優希子「じゃあ、私こっちだから」


了平 「うん。バイバイ、優希ちゃん」


優希子「……(呟いて)バイバイ、か」

 


了平 「え、なに?」

 


優希子「ううん、なんでもない。……またね、了平」

 


了平 「うん」

 

優希子 N:バイバイとかさよならって言葉を、彼にはもう使いたくなくて、私はそう言った。
      今日の再会を最後にしたくなくて言ったはずなのに、連絡するとは言えなくて。

      しばらくして振り返る。そこには誰もいない。
      姿が見えなくなるまで手を振ってくれたあの頃の彼は、もういない。

了平 「…またね、か」

 

 

了平 N:それは救いの言葉だった。
     今日の再会は偶然で、これから先の未来では許されないことだと思っていたから。

     またね、という言葉を未来に繋げたくて、俺は彼女にメールする。

優希子 N:久しぶりに会えて嬉しかったよ!

      ただ一言そう伝えたくて、私は彼にメールを送る。

 

 

 


了平 N:メールは。

優希子 N:届かなかった。

 

 

了平 「…やっぱりね。4年も経ってるんだ。変わってて当然か」

 

 

優希子 N:またね、と口にしたのに、結局さよならになってしまったと、私は。

 

了平 N:僕は、胸の奥がきつく締め付けられていた。

 

 


* * * * *

 

 


優希子 N:明日、ここを離れる。
      仕事が始まれば、きっとなかなか帰ることもできなくなる。
      そうなれば、昨日のような偶然が起こることも、きっとない。

 

      私は彼の足跡を追いかけるように、思い出の記憶をたどることにした。
      もし出会えたら、その時は…。今度こそ、きっと――。

了平 「あれ、優希ちゃん?」

 


優希子「(息荒く)……はぁはぁはぁ」

 


了平 「どうしたのさ、そんなに慌てて」

 


優希子「……っ、えっと。向こうで、了平が見えて、それで…っ」

 


了平 「お、うん。でもそんなに急いで来なくたって」


優希子「だ、だって…、もう、会えないって…っ、思ってた、から…」

 


了平 「そうそう、それ。アドレス変わってるなら教えてくれたっていいのに」


優希子「……はぁはぁ。……ふう。それは了平もでしょ?」


了平 「え?あ、あー。あはは」


優希子「笑って誤魔化してもダメです」


了平 「それで?そんなに急いで、僕に何の用?」


優希子「え?」


了平 「用があったから、走ってきたんでしょ?メイク落ちちゃうくらい汗かいてさ」


優希子「へ?……え?えーーーーっ!!ちょ、見るなぁ!」

 


了平 「(笑って)今さら?」

 


優希子「……むー。そこで待ってて!絶対そこ動かないでよ!」

 


了平 「いいけど…。何すんの?」


優希子「いいからそこで待ってて!!」

 


了平 「あー、はいはい」

優希子 N:見つけられたことが嬉しくて、大声あげて駆け寄ったのに、失敗しちゃった。
      でもお蔭で決心がついた。気持ちの整理がついた。

 

優希子「お待たせ。ねぇ、私行きたいとこあるんだ。付き合ってよ」

 


了平 「いいよ。どこ?」

 

 

優希子 N:私は何も言わずに彼の手を引いて、案内する。

 


      私が行きたい場所。私が本当の気持ちを伝えたい場所。
      それはあの場所しかなかった。

 

      私が彼との時間を止めた、あの場所しか――。

了平 「ここって、昨日会った場所じゃん。優希ちゃん、ここに来たかったの?」

 

 

優希子 N:私は彼に振り向いて、大きく深呼吸する。

 

了平 「なに?どうしたの?」

 


優希子「あのね、私ね。あの日、了平のためだって思って、手を離した。それは後悔してないの。
    だって今の了平、昔みたいに全然泣き虫じゃないし、むしろ堂々としてて男らしくなってるもん。
    ……ホントはね、自分から手を離したんだから連絡なんてするべきじゃないって思ってた。
    だけどね、ずっとね……、連絡、したかったよ。好きだったから、了平のこと。
    了平としたみたいな恋を、またいつかできると思ってた。なのにさ、どんな人と付き合っても、
    比べちゃうんだよ。その人と、了平のことを。了平だったら、何て言うかな?とか、この映画
    見たら、了平は泣いちゃうだろうな、とか。それも一年もすれば、なくなるって思ってたのにさ。
    ………ダメなんだよ。ずっと、残ってるんだよ…。消えないの…。消え、ないの…」

 


了平 「優希ちゃん…」

 


優希子「……っ、だから今日、もしまた会えたら、ちゃんと言おうと思ったの。私の素直な気持ち…」

 


了平 「……」

 


優希子「好きだよ、了平。ごめんね、まだこんなにみっともなく想ってて。呆れちゃうよね」


了平 「あ、いや…。別に呆れたりは…」


優希子「また付き合ってほしいとか、そういうんじゃないの。ただ自分の気持ちに正直になろうって」


了平 「気持ちに、正直に…」


優希子「うん。こうして再会できたのも、きっと神様が私に最後のチャンスをくれたんじゃないかって」


了平 「はは、運命?」


優希子「そ、運命」

 


了平 「昨日はバッサリだったのに?」

 


優希子「う、うるさいなぁ、もう。いいじゃん、細かいことは」


了平 「あははは。………はぁ」


優希子「んーっ、あー、なんかすっきりしたー。ありがとね、ちゃんと聞いてくれて」

 


了平 「(呟いて)聞かないんだ」

 


優希子「ん?」

 


了平 「返事。聞かないんだ、って」

 

 

優希子 N:そう言った彼の顔は、今まで見たことないくらい真剣で、私はその視線と空気にのまれて、
      動けない。

了平 「優希ちゃんさ、一方的すぎるよ。あの時も、今も」


優希子「そう、かな?」


了平 「そうだよ。俺がこの4年、どれだけ優希ちゃんのことを想ってたかなんて知らないでしょ?」

 


優希子「へ?」


了平 「また先に言われちゃうしさ」

 


優希子「なに、それ…。どういう…」


了平 「…はぁ。好きだよ、僕も。優希ちゃんと同じ。彼女がまったくいなかったわけじゃないけど、
    やっぱり優希ちゃん以外考えられないよ。これが僕の、正直な気持ち」

 


優希子「うそ…。え…、え…?」


了平 「ほら!」

優希子 N:混乱する私に、いきなり了平は手を差し出してきた。
      頭の整理が追いつかなくて、どうしたらいいものかと戸惑っていると。

了平 「ほーら!」

優希子 N:とだけ言って、私に手を出すよう促す。
      手を重ねてすぐに、私はぐいっと抱き寄せられた。

 

優希子「なっ…。えぇ…っ?」


了平 「優希ちゃん、もう一度僕と、付き合ってください」

優希子 N:抱きしめられたまま、私は耳元でそれを聞いた。
      もう一度と描いたことが叶うなんて思ってなかったから、私は嬉しくて、本当に嬉しくて、
      涙が溢れ出た。

      私が泣いていることに気づいた彼は、私に向かってこう言った。

了平 「はは、泣き虫」

 

 

 

≪ タイトルコール ≫

 


了平 「泣キ虫カレシ After Story」

 


優希子「 Tears of Love 」
   (ティアーズ オブ ラブ)

 

 

了平 N:泣き虫への魔法は今日で終わり。
     これからは二人で笑顔になれる魔法をかけるとしよう。

 

 

優希子 N:大丈夫。あなたと私なら、きっと――。

fin...

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