果乃 「ごめん、嘘。絶好調ですっ」
和樹 「ですよねー」
果乃 「そうなんですよー。えへへ」
和樹 N:よく知ってる笑顔。でもどこか違う顔。
きっとまだ僕の知らない顔を、その人は知ってるのかもしれない。
わかっていたことなのに、胸が苦しい。
果乃 「和樹は?彼女いないの?」
和樹 「ん?うん、いない」
果乃 「私が言うのもなんだけど、和樹ももういい年じゃん。結婚とか考えないの?」
和樹 「考えても相手いなきゃ始まんないじゃん」
果乃 「だから、でしょ。和樹だったら、好きになってくれる子、いそうだけどなぁ」
和樹 「でも今はいないよ」
果乃 「おっかしいなぁ」
和樹 N:ホントはまだ好きなんだ、って、こうして話して思った。
でもこの気持ちは伝えていいものか、考えてしまう。
きっと彼女のことだから『ありがとう』とは言ってくれるんだろうけど。
果乃 「…はぁ、やっぱり和樹と話すのは楽しい」
和樹 「そう?大した話をしてるつもりないんだけど」
果乃 「話の内容っていうより、なんていうの。安心感、っていうの?」
和樹 「それは彼氏に言ってあげなよ」
果乃 「彼氏は彼氏で、もちろんそういうの感じてるよ。ちゃんと言ってるし」
和樹 「じゃあ、なんで?」
果乃 「…う~ん。家族、みたいな感じなのかな?」
和樹 「家族?あー、兄妹とか?」
果乃 「んー、それに近いかなぁ」
和樹 N:家族、兄妹…。
恋人と同じくらい大切に想われてることはわかる。
でもそれ以上はない。
並んで歩くことはあっても、決して交わることのない間柄。平行線。
一度諦めたはずの、前を向くと決めたはずの想いは、いったいどこに――。
まだ好きなんだと気づいた今、もう一度その覚悟を決めなくてはならないのか…。
果乃 「あ、もう外明るいや」
和樹 「(あくびして)ふわぁ…。そうだね」
果乃 「そろそろお開きにしよっか」
和樹 「……うん」
果乃 「今度はいつ話せるかなぁ」
和樹 「こっちはいつでも。また連絡してよ」
果乃 「うん。和樹も私の声聞きたくなったら、連絡してきていいからね」
和樹 「彼氏いるのに、そういうこと言わないの」
果乃 「なんで?そこは彼氏とか関係ないじゃん」
和樹 「……えー。あー、はいはい。わかった、わかった」
果乃 「なんか扱い雑じゃない?」
和樹 「そう?いつもこんな感じでしょ」
和樹 N:そんなことないのに、言いたいことは全然違うのに、彼女に彼氏がいるというだけで、
一歩引いてしまう自分がいた。
ましてや奪うなんて度胸すらない。
だからなるべく素っ気なく、後腐れのないように接するしかない、と自分で勝手に決めていた。
果乃 「じゃ、またね。おやすみ!」
和樹 N:通話が切れて、プーップーッと音が鳴る。
耳に残るその音を聞いていると、途端に空しくなった。
外は明るくなってきていたのに、僕の心はまだ夜のままだった。
* * * * *
和樹 N:あの通話以降、彼女とはまったく話さなくなった。
元気にしているだろうとは思っていたが、連絡しても返事はなく、次第に僕の心や意識からも
彼女の存在は薄れていった。
無情とはこういうものなのだろうか。
時間が経つにつれて、接点がなくなり、いつの間にか『過去』となる。
この先の『未来』に、思い出の欠片として連れて行くことはできても、ただそれだけ。
和樹 「……なんだこれ?」
和樹 N:その日、郵便受けに入っていたのは、一枚のハガキ。
宛名に間違いはない。でも心当たりがない。
表に差出人の名前がなかったから、裏に書いてあるのかと思い、ひっくり返すと――。
和樹 「…結婚、しました。……果乃。……旧姓、大窪…?………え?」
和樹 N:実は今日は、彼女と最後に話した日と同じ日だった。
経過した時間が、あの頃の感情をすっかり食べ尽くしていたが、元彼女からの結婚報告は
嬉しくもあり、少し寂しくもあった。というか、わざわざハガキを送ってきたことに驚いた。
+ + + +
果乃 「幸せになればいいね!」
+ + + +
和樹 N:二人で話していた頃を思い出す。
そして僕は、自然と笑みがこぼれた。
あの言葉は、今も覚えてる。残ってる。
相手が僕じゃないのは残念だけど、今となってはいい思い出。
ちゃんと思い出として、消化されてる証拠。
先に結婚してしまった彼女に負けないように、僕も素敵な人を見つけよう。
……なーんて言ってるうちは、まだしばらく結婚なんてできないかな?
≪ タイトルコール ≫
和樹 「 誓いの記憶 」
???「(呼びかける)和樹くーん?」
和樹 「あ、ごめーん。今行くー」
果乃 「 お わ り 」
fin...