果乃 「え、だから、うん。別れたよ」
和樹 「……マジ?いつ?」
果乃 「えっと…。二週間前?」
和樹 N:それを聞いて、なんだかホッとしている自分がいた。
でも彼女にとって、僕はもうきっと、対象外。
それがわかっているからこその、この距離。
果乃 「だからってわけじゃないけどさ、今度遊ばない?」
和樹 「え、いいの?」
果乃 「だってもうフリーだもん。彼氏に行動を制限されることもなくなったわけだし」
和樹 「(苦笑いして)……はは。されてたんだ」
果乃 「そうなの。恋は盲目ってよく言うけど、ホントその通りだと思うよ」
和樹 「確かに。……じゃあ、いつにする?」
果乃 「いつだったら大丈夫?付き合ってた時と一緒?」
和樹 「うん、変わってない」
果乃 「じゃあ、来週の――」
和樹 N:約束をして、二人で会うことに。
最後に二人で会ったのは、別れた時。
電話とかで済まさずに、ちゃんと会って区切りをつけられたから、今があるのかもしれない。
何より、自分の中に、あれからもずっと彼女がいたことが大きい。
果乃 N:元彼だった人に別れたことを伝えた。
なんとなく話の流れで言っちゃったけど、元々聞かれたら答えるつもりだった。
あの頃に話していたこと、今でも覚えてる。
だから今もこうして、いい関係でいられるんだと思う。
和樹 「映画って初めてじゃない?」
果乃 「それ!私もそう思った!」
和樹 「あの頃、どこ行ってたっけ?」
果乃 「えっと…。買い物とか、公園とか?」
和樹 「あとは?」
果乃 「あと…。って、和樹は覚えてないの?」
和樹 「(笑って)はは、あんまり」
果乃 「人のこと言えないじゃん」
和樹 N:当時は本当にどこでもよかった。
どこかに行くことが目的じゃなくて、一緒にいることが目的だったから。
だから今日は、なんだか新鮮な気持ちで過ごせる。
果乃 「あ、ねぇ!晩御飯はさ、あそこにしようよ!」
和樹 「よく行ってたとこ?」
果乃 「そ!だって和樹とこうやって過ごすのって久しぶりだし、なんか懐かしいじゃん?」
和樹 「りょーかい。付き合いますよ」
果乃 N:一度は別れた私たち。そんな私の我儘を、彼は変わらずきいてくれた。
それが、うん。やっぱり嬉しかった。
傍(はた)から見たら、ひどい女って言われそうだけど。
和樹 N:久しぶりに二人で会うから、緊張はしていた。
でも話していくうちに、そんなものはどこかに行ってしまった。
なんだかんだで、知り合ってからの付き合いが長い分、すぐに打ち解け、盛り上がる。
そこに恋愛感情がないかと問われれば、自信をもって『YES』とは言えない。
だけど今は、この距離感が心地よかった。きっと、彼女も――。
そんな僕らがヨリを戻すなんて…、ね。
* * * * *
果乃 「……はい、誓います」
和樹 N:再会した翌年、僕らは結婚した。
結局のところ、お互いがお互いを大切に想ってることには変わらなかった。
今でも鮮明に覚えてる。
あの頃、二人で話していたこと。
+ + + +
果乃 「幸せになればいいね」
和樹 「お互いに?」
果乃 「もちろん!」
+ + + +
果乃 「(涙ぐんで)いつかまた、恋人に戻りたいね」
和樹 「そうだね。期待しないで待ってるよ」
果乃 「もー。そこは“期待して待ってる”って言ってよね」
和樹 「あはははは」
+ + + +
和樹 N:本当にその通りになってしまった。それも恋人に戻るどころか、そのままゴールインなんて。
……人生ってわからないものだな。
果乃 「なぁに、一人で悟ったような顔してるの?」
和樹 「し、してないし」
果乃 「あー、なんか隠してるでしょ?」
和樹 「隠してない。なんでもない」
果乃 「へー。じゃあ、私が当ててあげよっか?」
和樹 「は?」
果乃 「…うーん。そうだなぁ」
和樹 N:彼女は空を見上げて、記憶の中から答えを探す。
果乃 「……和樹」
和樹 「な、なに?」
果乃 「幸せになればいいね!」
和樹 「……っ」
和樹 N:それを聞いて、僕は頬を緩ませる。
まったく、本当に彼女には敵わない。
和樹 「…お互いに?」
果乃 「もちろん!」
和樹 N:だいぶ遠回りをしたけど、僕はあの時の気持ちを忘れない。
失ってから気づいた、彼女が大切な存在であるということ。そして――。
果乃 「えへへー」
和樹 「…愛してる」
果乃 「へ?」
和樹 「ずっと一緒にいような」
果乃 「……うん!」
和樹 N:彼女は抱きついてきて、そっと耳元で言った。
果乃 「ずっと好きでいてくれて、ありがとう」
≪ タイトルコール ≫
和樹 「 想いの欠片 」
果乃 「 お わ り 」
fin...